元赤坂「辻留」

食べ歩き ,

元赤坂「辻留」
僕にとって、ここはすべてのメモリをゼロに戻してくれる場所である。
食べる。料理とは何か?
あるいは美食とはなにかがわからなくなった時に、ここにくる。
どの皿も雄弁ではないが、朴訥とした語りの中に、いつも真実がある。
和食の美しさとはなにかと、教えてくれる。
1.あこう(小豆旗)のお造り。  じっとりと甘味が時間をかけて伝わるお造り。その切り身の厚さ、隠し酢を入れた醤油、塩気を入れて絞った瓜の青い香り、水前寺海苔、ザングリ自然に盛ったわさび。全てに意味がある。
器:魯山人
2.鱧ひろうす。ゆず、椎茸。つるなの若芽。 豆腐の味をそっと静かに持ち上げる鱧の旨味がいじらしい。その度量の深い味付けが憎たらしい。椀の蓋を開けた途端に、ゆずの爽やかな香りが漂って、その涼に眼を細める。お汁を飲めば、淡い中に深々とした滋味があって、口と心を満たし始める。そしてひろうすは豆腐の自体の淡い甘味を忍ばせ、鱧がひっそりと旨味を持ち上げる。小さな椎茸の優しい旨味、若芽の弱い青々しさ。何気なさの中に美が忍んでいる。
3.枝豆豆腐。江戸切子。 なんたる香り、なんたる食感。甘く青い香りが広がったかと思うと、豆腐はもったりと舌にしなだれながら、何事もなかったように消えていく。箸でつかめながらも口の中では儚い。葛の塩梅がよい。下地のおつゆも飲み干してこそ、夏は過ぎ行く。
4.身欠きニシンの棒煮とナス。はらりしっとりと崩れるニシンの、しみじみとした旨さよ。炭火で焼いてから干しエビとたかれたナスの、気高い甘み。ムースのように溶けながら命のたくましさを伝える
5.アマダイ幽庵焼き。凛々しいお姿、はじかみもなにもなき、潔さ。器と魚が仲睦まじく一体化し、自然のありがたみを伝える。器魯山人。FB参照
6.ほうれん草とほっき貝の酢の物。酸味がどこまでも丸いが、しっかりとあり、今までの料理の味わいを流しつつ、ご飯へと向かわせる。魯山人
7.そばめし。  焼き鯛を入れて炊き込んだご飯、そば、ご飯そばと重ね合わせておつゆを張った料理。素朴さの積み重ねの中に震えるような美学がある。本来は冬の料理なれど、好物ゆえに作っていただいた。
7.水菓子
8.栗小餅。虎屋。素晴らしい
9.お抹茶。

お軸 魯山人。ぶどうとざくろ
「みちのくの宿の老女の菊づくし」奥村土牛

とっくり 盃
辻村史朗
小林東吾
北大路魯山人