三越前「蟹王府」

上海のおかず。

食べ歩き ,

「上海蟹だけじゃなく、上海の人たちが食べているおかずを作って欲しい」。
そうお願いしたら、「合点承知」と、「蟹王府」の料理長が、次々と料理を作ってくれた。
これが大変危険なのである。
酒が進んで困るのはもちろんながら、猛烈にご飯が恋しくなるのである。
まずは「川エビの揚げ炒め 油爆河虾」が運ばれた。
殻ごとあげた海老の香ばしさと甘辛い味わいが、味覚を刺激して、止まらない。
これは急いでビールだな
続いて運ばれたスープに惚れた
豚バラ肉を煮込んで作った白湯に、塩漬け豚バラ肉を入れ筍とちしゃとうを入れたスープ「上海伝統 筍と塩漬け肉と豚バラ肉の煮込みスープ 上海腌笃鲜 」である。
スープがしみじみうまい。
とろんとコラーゲンが溶け込んだ、深く丸いスープに、発酵して練れた塩気が入り込んで、飲んだ途端に笑い出してしまう力がある。
入っている肉は、もう出汁ガラで、この濃厚な旨味で筍を楽しむ料理なのだな。
 
続いて「ピリ辛味噌五目炒め 八宝辣酱」と来た。
さいの目に切った野菜と肉の甘辛炒めである。
一口食べて3皿目だというのに、叫ぶ。
「ご飯ください」。
この濃密な味わいを、様々な食感を、ご飯で受け止めなくてどうするというのか。
ご飯の上に乗せ、掻き込めば、箸が加速する。
「もう一膳」と、言いたくなるのを、どうにか理性で抑えた。
4皿目は、「水晶虾仁 むき海老の炒め物」である。
薄赤色に輝く海老たちが愛おしい。
塩気がピタリと決まり、海老の甘さを引き立てる。
芝海老ではなく、日本にはいない川海老だという。
ぷりんと弾ける身が可愛いぞ、近こう寄れ。
 
5皿目はみんなおなじみ「東坡肉 东坡肉」、上海名物料理である。
これは肉ではなく、脂と皮と皮下コラーゲンを楽しみたい。
これも一口食べて叫んだ。
「大至急ご飯!」
肉を崩し、ご飯と混ぜて食べる。
たまりませんぜ、旦那。
6皿目は「干しナマコと海老の卵の煮込み 蝦籽海参」と来た。
小さくトゲがピンと立った、一番美味しく高級な干しナマコである。
大きいのはいけません。
歯ごたえが違います。
噛もうとすれば、ふんわりと歯が抱かれ、クニュ、クニュリとナマコが身悶えて、崩れていく。
その姿が生きているかのようで、コーフンしちゃいます。
こいつは残ったソースに、紹興酒を垂らし、デグラセして飲むのだな。
 
7皿目は、「油焖笋 筍の油炒め」が運ばれた。
焦げ茶に染まった筍である。
柔らかい部分だけをよって、炒めてある。
周りの味は、上海特有の甘くしょっぱい味であるが、それは筍を色付けているだけなのである。
噛めば優しい筍の甘みがにじみ出て、ほっこりとする。
これもご飯で受け止めたかったが、我慢した。
8皿目は、「葱油蚕豆 空豆の葱油炒め」である。
葱油の香ばしさにまみれた、空豆の甘い情にほだされる。
皮から出し、クチャっと潰して、ご飯の上に乗せる。
さすればご飯の甘みと握手して、破顔一笑、一気呵成。
空豆の優しさとご飯のありがたみに感謝しつつ、箸を置く。
 
9皿目は、「大汤海鱼馄饨 旬の魚のワンタン高菜スープ」である。
魚の滋味が溶け込んだスープと高菜特有の塩気が抱き合った、クセになる味わいの中に、ワンタンがいる。
ワンタンがあるので頼まないけど、このスープをご飯にかけて茶漬けにしたらうまかろうなと、もう三膳も食べたのに、またご飯が欲しくなる私でした。
みなさん出かけるなら、お腹すかして行ってね。