酒井さんの弟弟子である「松川」の松川さんは、かつて言っていたという。
「酒井さんは天才です。普段だったら捨ててしまうような野菜のクズでも、とんでもなく美味しいご馳走に仕立ててしまう。僕には到底できません」。
そう。誰でもできることではない。
それなのに「そばにあったものを合わせただけです」。
料理を褒めると、「味道広路」の酒井さんは、照れるようにしてさらりと言った。
いやそうではあるまい。
今まで数多くの甘エビを食べてきたが、こんなに甘さの中に包容力のあるエロさを感じたことはない。
「もっと惚れてもいい?」と、思わず聞いてしまったくらいである。
十勝の手亡豆と甘エビ、ウイキョウの小鉢である。
豆は噛んだ時ようやく潰れくらいに炊かれている。
そして噛むと、豆の中よりじっとりと穏やかな甘みが広がって来る。
そこへ甘エビである。
豆の甘みの中より、ねっとりとした甘みをにじませ、豆の甘みと抱き合うのであった。
溶け合う二つの甘みに、ウイキョウの甘い香りが風となってそよいでいる。
ああ、エレガントとはこのことであろう。
確かに、ただそばにあるものを合わせただけかもしれない。
でもそこには、酒井さんの見識と感性、対かな技があるからこそ、心を揺さぶるのであろう。
その天才は、北海道栗山町にいる。
「味道広路」の全料理は、