新橋「てんぷら あらたみかわ」

青年の天ぷら。

食べ歩き ,

出来て一ヶ月も満たない天ぷら屋である。
「まだバタバタしていて、緊張の連続です」。
37歳の天ぷら職人は、そう言って初々しく笑われた。
しかし、穴子は加熱の頂点まで見切って揚げられ、持てる力をすべて出し切っていた。
これは若い職人にはなかなかできることではない。
頂点の先は、天ぷらが台無しになってしまう奈落の底が待っているからである。
恐れのために八合目くらいで、揚げ切ってしまう。
それでも十分に美味しいが、真のうまみはまだ先にある。
キスもまた、したたかな甘みを出し切って胡麻油の香りと共鳴し、イカもまたその甘さを膨らまして、口に流れ込む。
師匠の教えを守りながらも、ウニのシソ巻きはやや手前で揚げ、松茸や稚鮎もみずみずしさを残すように微妙に変えて揚げている。
名店出身ながら、現状に満足せず、自分なりの考えも投入して、微妙に仕事を変えているのも、微笑ましい。
店名は最初、店主小川さんの名前が師匠からつけられたという。
だが師匠が天ぷらの真髄を理論的に求道しながら、進取果敢だったように、彼にもその気運を感じたのかもしれない。
名店の名をつけて考えられた。
新たなる道を歩んでほしいという思いを込められたのか。
その期待を背負って、青年は今日も天ぷらを揚げる。
新橋「てんぷら あらたみかわ」にて。