「滝野川はん、あけましておめでとさん。今年もごぼうにとって、いい年でありますように」。
「おう。いい年にきまってらぁ。そのためにも、先月話せなかった肉や魚とのつきあいを上げて、度量の深さ、寛大さを分かってもらおうじゃねえか」。
「ほな、魚から行きましょか」。
「じゃ定番からいってみよう」。
「定番てなんや」。
「八幡巻よ」。
「いかん。忘れとった。あれはわてとこの地で生まれた料理や。大阪府と接する京都の南に八幡市ちゅう小さな市があってな。ほんで作られとった八幡牛蒡ゆう、太いのんを使ったのが始まりや」。
「ほう。最初はなにを巻いてたん?」
「なんでも鮒と昆布を巻いて、饗応しはったんが始まりらしいんや」。
「それがいまじゃ穴子や鰻、牛肉や豚にも巻かれちまう。俺が褒めてえのは大阪水了軒の駅弁「八角弁当」の穴子の八幡巻だね。香りが生きてて、ご飯が進まあ」。
「ええとこ目をつけてはる。渋谷の居酒屋「酒菜亭」の、千に切ったごぼうと人参を穴子で巻いてふわりと煮た、穴子の八幡煮ちゅう皿もええで。まあ巻かんかて魚とは相性ええしな。ほかに合う魚はどうや」。
「よし、めでてえとこで鯛はどうだ。長崎は二見漁港の料亭「二見」では、鯛のあらだきに添えてもらった」。
「ほう、相手が鯛やと、うちらの香りが邪魔するような気がするけどなぁ」。
「ところがどうだい。裂けた皮んとこから膨らんだ白い身がのぞいた、いかにも活きがいい天然鯛の、凛々しい身質と上品な甘さが合ってねぇ。また香りが鯛に移って都合がいいんだ」。
「そうだ。京都の居酒屋、「凧錦」でもおんなじ仕事しはってな。茶色く艶やかな色合いになった拍子切りのごんぼが、鯛に寄り添ってましたわ」。
「魚の王、鯛とごぼう。よき出会いだねぇ」。
「わてらは、甘辛い煮汁と仲がよろしいやろ。そやさかい代々木の「正一」では、めばるの煮付けにもたっぷりと添えてな。メバルにはごぼうの香り、ごぼうには魚の滋味や脂が溶け込んだ煮汁が染みて、みな食べると目が輝くそうや」。
「相乗効果てやつか。なら江戸っ子の合わせ技効果を教えてやろう」。
「なんや」
「なまり節と新ごぼうてえ組み合わせよ。新ごぼうのシャッキッとした粋な歯応えが、アクセントになってなまり節を引き立てているン。酒が進むねぇ」。
「それはどこの店や」。
「湯島の「シンスケ」よ。八角の染付け小鉢に入れてね。まだある。四谷の「萬屋おかげさん」では、蛸に合わせた」。
「蛸と来はったか」。
「おうよ。桜煮にした蛸のむっちり肢体と、ザクッと歯がめりこむごぼう。異なる歯応えで互いを引き立てあうという」。
「対比効果か、料理人も考えるねぇ」。