トップシェフイン大阪
マッシモボットゥーラ 「オステリア・フランチェスカーナ」前篇
★A Potato Waiting to Become a Truffle
「トリュフになりたい男爵いも」
マッシモ 「誰もが皆トリュフになれるわけじゃない。 ほとんどの人はじゃがいもだ。でも、おいしいじゃがいもであることは、とてもすばらしいことなんだ。僕はトリュフより、じゃがいもになりたい」:。
口を開ければトリュフの妖艶が香る。
その香りに心を揺らされながら、口に含む。
その瞬間、じゃがいもの素朴で温かい甘みが顔をもたげ、口の中に広がっていく。
それはトリュフでは得られない、温かみで心を抱きしめる。
トリュフは、じゃがいもの力を、大地のたくましさを秘めた暖かさを、そっと持ち上げているのだった。
★Seto – Uchi Fish Soup
瀬戸内の魚介のスープ
「料理から行動を起こしていくことが私の使命です。この一皿は海洋汚染という問題に光を当てるとともに、日本の海の豊かさを再確認する意味を持ち合わせています。 瀬戸内の牡蠣を基調とした茶碗蒸しに、車海老と北寄貝、サリコルニア、オイスターリーフなどの潮の香のするハーブを添え仕上げています。この美しい日本の海、 自然を守り、 次の世代に伝えていくことが、ここに生きている私たちができることです」。
皿の中には、豊かで穢れなき海の滋養が満ちている。
しかしハーブの香りと食感が、森を想起させ、森は海の母親であるということを教えられるのだった。
★From Gragnano to Osaka
グラニャーノから大阪へ
「スパゲッティほどイタリアらしいものはありません。 今回私たちは、ハマグリや赤ウニなどを使い大阪流カルボナーラに仕上げました。日本最高の食材が集結する天下の台所、大阪とイタリアを融合した一品です」」。
蛤の豊か過ぎない出汁をまとったスパゲッティーニを口に含んだ瞬間、笑い出す。
海の豊穣がここにある。
そして瀬戸内海産のウニは、北海道とは違う控えめな品のある甘みを静かに流し、蛤の滋味と抱き合うのだった。
そこへイタリアンパセリの青い香りが流れ、優美な気分となっていく。
もしマッシモ のおばっちゃんが大阪に来て、食材と出会い、パスタを作ったら、こんなものを作ったに違いないという、慈愛に満ちた一皿。
★Melanzana
メランザーナ
「厚切りにした京賀茂茄子をグリルし、ローストして、 「カーザ・マリアルイジャ」の有機はちみつで艶を出しています。大阪泉州の焦がし玉ねぎのパウダーと香草ソースで仕上げ、 素朴なナスが、牛フィレにも劣らぬ、あるいはそれ以上に高貴な一皿へと昇華します」。
「おいしい」。
一口食べて、思わず口ずさんでしまった。
こんなエレガントな賀茂茄子料理は、ない。
蜂蜜の濃密な甘みと焦がし玉ねぎの微かな苦味と合わさった中を、ナスのとろりとした甘みが舞う。
口に運ぶと、濃密なハチミツの甘の中から茄子がとろりと崩れ出る。
いや崩れるというより、溶けると言った方がいいかもしれない。
そこへ焦がし玉ねぎの甘みと微かな苦味が漂い。
ナスの甘みをいたわるように抱きすくめる。
余韻が長い。
いつまでもいつまでも口の中に、ナスの優しい甘みが居座って、心を温めるのだった。
後編へ続く
マッシモボットゥーラ 「オステリア・フランチェスカーナ」前篇
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