「ごぼう料理ゆうたら、これはどや。京都の名物ちりめん山椒てあるやろ。あれに薄い笹がきを入れて一緒に炊いた、ごぼうじやこ」。
「うまそうじゃねえか。京都か」。
「いんや。神田の「波良」ちゅうおばんさい屋や。山椒にごぼうの香りが加わって、ご飯何杯かて食べられるわ」。
「ほんとなんでも合うな」。
「ほな合わへん魚とはなんやろ」。
「淡い味付けの白身魚。蟹、いくら、ウニなんてのも合いそうにないな」。
「いやウニも見つけたで。銀座の「橙」ていう居酒屋の、ウニとごぼうの柳川鍋や」
「なるほどね。玉子とごぼうは柳川で古くからの仲間だ。そこに玉子系の甘味をもつウニをくわえりゃ、当然うまいよな」。
「その通りや。ウニがほんのり野暮ったくなるけどな。そこもまた愛嬌や」。
「魚はこんなとこで、肉といくか」。
「肉で一番相性ええのはなんやろ」。
「そりゃあ牛肉よ。味が濃い。居酒屋の「神田小町」には、牛肉とごぼうの田舎煮てえ肴があってな。細切り牛肉と笹がきや人参を甘辛く煮込んである。ここでも俺らは香りを発揮。牛肉と一緒に放り込んで、くいっとぬる燗をやりたいねぇ」。
「ほなすき焼きもええな」。
「今は無き飯倉の「はせ甚」では、笹がき入れるのが流儀だった」。
「甘めの割り下の店やったな。京都でも発見したで。西陣の「雫亭」いう店や。松坂牛カルビの細切りと笹がきを甘辛く炊いてはってな、ほかになにもない。がっぷり四つで互いの味を高めておったわ」。
「じゃあ豚はどうだ」。
「知らんなあ」。
「青山の料理屋では、昼に豚の柳川出してるくらいかな。寂しいねぇ。反面鳥類は豊富に使ってもらっている」。
「そやな。身近なとこでは、御茶ノ水の「竹や」の鴨汁うどんや。熱々の鴨汁につめたいうどん漬けて食べるんやけど、鴨汁に笹がきがぎょうさん入っててな。鴨の脂とごぼうの香りがマッチするんや」。
「鶏も身近なところで上げてやらぁ。変り種で中国料理はどうだ。赤坂「トゥーランドット」の昼のランチボックスよ。ごぼうと地鶏の黒胡椒ご飯ていってね」。
「そらうまそうやなあ」。
「黒胡椒の刺激を利かした鳥の照り焼きとごぼうの細切りよ。鳥を齧ったその口でごぼうを齧り、ご飯を掻き込もうって寸法よ」。
「なるほど。いずれにせよ、甘辛い味にわてらは必須ちゅうわけやな」。