栗山町 味道広路

無駄がない。 余剰がない。 過多がない。

食べ歩き ,

無駄がない。
余剰がない。
過多がない。
朴訥ながら、神経を傾けて噛んでいくと雄弁となる。
どの味わいも清淡ながら、真の豊満を教える。
穏やかながらも、深奥が潜んでいる。
できれば毎日この料理を食べたい。
そんなことを言うと酒井さんは、おっしゃった。
「将来は店を辞めて、リヤカーを引っ張って全国を回りたい。そして泊めていただくお礼に、その家で料理を作らせていただく。そんな生活をしたいと夢見ています」。
こんなことを言う料理人が、どこにいるのだろうか。
そんな突飛な夢を語る酒井さん話を聞きながら、奥様が優しい目で微笑んでいた。
栗山町「味道広路」の料理。9/12
★ヤリイカの子 黒豆 炒った松の実 ずんだ
子イカのいたいけな甘みにずんだの静かな甘みが寄り添う。いった松の実の香りのほのかなアクセントに痺れる。豆の静謐。
★そばがき、落葉、なめこ、木耳のお椀。
掻きかたが素晴らしい。口に入れた途端に淡雪のように消えていく。出汁の洗練され過ぎていない味わいこそが、茸への思いやりであり、そのことが何より心に沁みる。
★メジマグロ 白玉ねぎ、茗荷 梅酢 ニラの花、わさび
近海で上がったというメジマグロは、なめらかできめ細かい。ゴロッと切られた大きさが、乱暴のようで精妙にマグロの旨みを伝える。梅酢の旨みだけで、玉ねぎ、ミョウガ、わさびという三種の野菜をそれぞれに合わせて、食べる清らかさ。醤油の不要。
★目鯛山椒焼き 南瓜みじんこ揚げ
インゲン梅干煮 なんとおいしいこと。梅干のうまみだけがふっくらと。
メダイは、しっとりしながらたくましさがある。噛めば、汁が滴り落ちる。
南瓜の重みがなく、軽やかに、品のいい甘さだけを残して消えていく。
★南茅場で上がったサバのぬか漬け 黒丸大根のきり干し 長ひじき
ぬか漬けのカーブを描くうまみと熟れた酸味、 大根おろしの淡い甘み、切り干し大根の鄙びた味わいと痛快な食感、 胡麻の香り。
それぞれの量が精妙に考え抜かれたバランスによって生まれる、自然。
★トマトの葉っぱとししとう、ナス ドライトマト
素揚げ茄子しっかりしてきめ細かい。イタリアのナスとトマトの料理とは違う寄り添いかた。日本の里ならではの、愚直な寄り添い方がしみじみとうまい。
★くるみ.鞍掛豆 菜種油で焼いたくるみ 炒った大豆。
すべてを菜種油がつなぐ。くるみのナッツ香鞍掛豆の甘み。
ああ、なんて美味しいのだろう。
★巨峰と栗山の食用鬼灯、余市のデラウェアのゼリー寄せ
ここにも精妙に計算された調和があり。
★塩小豆羊羹と 梨。
羊羹の寛容さが心を溶かす。塩と小豆と砂糖だけで、なぜここまでエレガントなのか。