またいくつか無茶振りをした。
イタリアンのシェフに、木の芽味噌を使った料理が食べたいという、意地悪な希望を出したのである。
木の芽味噌をつかうと、どうやってもイタリア料理にはならない。
でもそこは流石に無茶振りに慣れているシェフである。
イースターの時期ということもあり、イタリアでイースター(イタリアではパスクアという)の時に食べられる、ゆで卵いりのタルト、トルタパスクアーナに仕立てたのである。
くたくた煮にされた野菜類の穏やかな甘みとゆで卵が合わさって、気分がほっこりとなる。
その陰に、木の芽味噌がひっそりといる。
だが不思議に味噌感がなく、味噌の旨味と塩分だけをのせて、これはこういうイタリア郷土料理ですと言われたら、そのまま信じる料理なのであった。
次に「春だから、赤貝もいいよね」と、無茶振りをした。
今まで散々日本でイタリア料理を食べてきたが、赤貝が出されたことはない。
シェフは、サラダに仕立てたのである。
トマトウォーターとバジル マンゴー インゲン、クレソンの新芽のサラダである。
このマンゴーが、いい。
マンゴーの香りが、赤貝のほんのりと香る鉄分の嫌な香りをマスキングして、軽やかで優美なサラダになるのであった。
そして何より気に入ったのは、そら豆と豚皮が食べたいという無茶振りである。
空豆と豚皮を徹頭徹尾煮込んだ料理に、酸味を効かせたフキとウドを合わせてある。
豚皮のコラーゲンの甘みと煮込まれたそら豆の甘みが抱き合って、心に陽だまりができる。
そんな味わいを、柔らかい酸味がキュッと締める。
ふきとうどの香りが、春を散らす。