五十嵐美幸さんと初めて出会ったのは、13年前で、 ちょうど料理の鉄人に出て、話題になった頃だった。
22歳のしなやかな感性から生み出される 個性的な料理に唸り次々と人を連れて行ったなあ。
去年、お父様から独立し、念願の店「美虎」を出された。
すぐには行かず、そろそろもお店もこなれてきた頃かなあとお邪魔した。
といっても2ヶ月以上も前4月1日である。
事前に「野菜中心でお願いします」と、コースを組んでいただいた。
まず、魚介の冷菜が3種、イカの味わいに深みが増した「ホタルイカの紹興酒漬け」、紅麹の、練れたうまみがマグロを妖艶にし、酒を呼ぶ「マグロと京菜花の紅麹和え」、ぬるりと口の中で溶けるコラーゲンの食感に、胡椒と山椒のアクセントを利かせた 「鮫皮と長芋の煮凝り、山椒ダレ」。
続いて野菜の前菜盛り合わせ。
優しい甘味が広がる「カリフラワーの煮凝り、トマトソース」、 マンゴーの香りと甘酸っぱさが、ズッキーニ的韓国南瓜を華やかに引き立てる 「韓国南瓜マンゴーソース」、素朴な味付けの妙、「かき菜と百頁(バイエー)の和え物」、高菜の塩気が筍の甘味を立たせる、「春筍の高菜和え」、甘さの中にさらりと生姜の刺激を利かせた「きんかんの生姜風味」。
香り、色合い、食感、味わい。それぞれに異なる前菜が、食欲をあおる。
苦瓜、インゲン、紫芋、南瓜などを干した、野菜チップスと炒め合わせた、 「ハーブ豚の自家製チャーシュー、野菜チップス和え ゴマ風味」
しっとりと肉汁がにじむチャーシューと、チップスの軽い食感との競演が楽しく、そこをヒリリと辛い、ゴマ風味が盛り立てる。
次の皿は、微塵にした蕗の薹、干し海老、干し貝柱と炒めた
「春野菜のフキノトウ炒め」。
複雑なうま味と蕗の薹の苦味に絡んだ、プチヴェールや金針菜、マコモダケや筍がうまい。
続いて皿は、一同を黙らせた。 「生姜のプリン、スッポンスープ仕立て」。
すっぽんのスープに欠かせない生姜の絞り汁を、再構築した料理だ。
見事。
品よく滋味深いスープに、豆乳、卵白、生姜、生クリームで作られたプリンが、ふわりと溶けていく。
四皿目は、「芝海老とアスパラガスのピリパリ唐辛子炒め」。
アスパラを射込んだ芝海老を揚げ、ピーナッツや唐辛子と炒めてある。
ピリパリとはなんとスナック菓子の名前で、そのスナック菓子と炒め合わせてあるのだ
ナッツ、唐辛子、アスパラ、ゴマ、海老の香りが弾ける、痛快なり。
続いては、舌の上でとろりと広がる食感で魅了する、「サーモンと新じゃが、とろ湯葉の煮込み」。
半生に火を通された鮭の味わい、溶ろけるようなジャガイモの甘味、舌にしなだれる湯葉の甘味が、うっとりと共鳴する。
さあ、最後の主菜だ、「ハーブ豚のばら肉と金時芋の煮込み」。
なんとも奥行きのある味わいで、上品な甘味の中に複雑な塩辛さが溶け込んで、豚と芋の甘味を包み込んでいる。
割包にはさんで食べれば一同笑顔。
閉めは、塩が舌に当たらず、あさりの滋味がにじみ出た、「<strong>あさりとしんとり菜、生海苔の湯麺」
干し海老、ハムユイ、干し貝柱のうま味が隠された「菜花炒飯」で大満悦。
香り高い「杏仁豆腐」、「マンゴープリンで、大団円。
山や海からの春の恵みを、多彩な味付けで生かした料理。
今夜は、穏やかで逞しき春が、満開で心に宿った。