門前仲町「魚亭」

心を休め、体を横たえる。 

食べ歩き ,

ディズニーで約100人相手に2時間弱、講義をした。
ヘトヘトである。なので途中下車をして小料理屋に向かった。
店は、黒塀に長暖簾と粋な雰囲気で、待ち構えていた。
店を営む、ご主人も女将さんも、いかにも下町育ちでございという、気さくな暖かさが滲み出ている。
おかげで初めてだというのに、すうっと腰が落ち着いた。
さあ何を頼もうか。
頭の中で、幾通りもの脚本を組み立てる。
この空想の時間が、料理屋での楽しみの一つである。
お造りは、メジマグロにタコと青柳をもらおう。
おやっ。タコ酢があるぞ。
なめろうは、アジならわかるが、青柳とは?
そこで作戦を変更して、刺身は、メジマグロにアジ、それにキジハタの昆布締めを頼んでみた。
うん、どれも質がよく、包丁の冴もある。
野菜は、いんげん黒ゴマ、赤茄子、それにツルムラサキのおひたしをいただく。
インゲンは注文から茹で、胡麻和えではなく、胡麻地をかけてある。
青柳のなめろうが来た。
おおっこれは、大至急ぬる燗である。
味噌の塩梅がよく、細かく切られていても、青柳の香りが漂う。
新じゃがバターにタコ酢も頼もう。
品書きを眺めていると、変なものを見つけた。
「青海ガメ」とある。
聞けば捕獲を許されている八丈島より、分けてもらってスープに仕立てているのだという。
「お願いします」。
そのスープは澄んでいるが、奥底に野生のふてぶてしさがあった。
肉は強靭で、顎の力に挑んでくる。
飲み食べていくうちに、静かなコーフンを呼ぶ。
ああ、今日もどっぷりとお酒をいただいた。
最後に塩おにぎりをいただいて、箸を置こう。
門前仲町「魚亭」にて。