命に感謝する前菜。

食べ歩き ,

季節を盛り込んだ、命に感謝する前菜。
馥郁とした香りと豊かな甘さに祈る、白味噌椀。
野草とジビーフの出会いに覚醒させられる肉料理。
皮や揚げた皮と草を抱き合わせた、定番の鯉のお造り。
地面を駆け巡った筋肉が歯に食い込む、鳥のすき焼き。
中東さんの、ボケたダジャレ。
「草喰 なかひがし」のご馳走は、数多くある。
しかしこの店の料理が最も集約されているのは、ご飯の前に出される野菜の焚き物だと思う。
この日は、大根とお揚げの炊いたんであった。
出汁も醤油も塩も使わず、大根葉と刻んだお揚げだけを水だけで炊いた料理である。
「はぁ〜」。
一口食べた途端に体の力が抜けていく、安堵感はなんだろうか。
汁を吸い、葉を食べた瞬間に訪れる、懐かしさはなんだろうか。
お揚げと葉を一緒に食べると訪れる、豊かな喜びはなんだろうか。
次第に無くなっていく器を見ながら抱く、無常感はなんだろうか。
もちろん、大根葉もお揚げも、普通では手に入らぬ最上のものを吟味しているのだろう。
だが、ごく当たり前の、どこにでもある食材から、この上なきご馳走を生み出そうとする精神が生んだ料理は、震えるほどの感動を連れてくる。
高級食材に甘え、堕落した舌を浄化し、素の味を知る大切さを胸に刻む。
さらにもう一つ好物を挙げるとするなら、おこげご飯である。
おこげに塩を振り、白湯をかけて少し置き、ちょっと潰して掻き込む。
「ズルルルッ、ガリカリッ、ザブザブ」。
おこげの香ばしさと食感、塩で引き立った米の甘み、白湯に溶け込んだ米のほのかな甘みが一体となって、舌の上を滑る。
ニューヨークの夕陽や世界一周、TKG、そしてメザシで食べる白ご飯も、この上ない、
だがこの湯桶というか、「おこげ白湯漬け」だけは、欠かせない。