一ヶ月前となるが、経堂「彩雲瑞」に出かけた。
前菜は、紹興酒のほのかな香りが効いたうずらの卵や、石川小芋の甘みを引き立てる山椒味噌、みずみずしさと練れた塩気を出会わせた加賀太胡瓜と蝦子、甘草をきかせた鯉の煮凝り、四川の定番インゲンと干しエビ搾菜の炒め和え、ぬるんとしたエッチな食感に目を丸くする、アロエの煮びたし。
ハナから千脇さん気合が入っている。こちらも背筋を伸ばし、身を乗り出した。
続いてよくデザートに使われる雪蛤(蛙の皮下脂肪)と蟹と卵白の炒め。
白い食材をふわふわに炒め合わせ、噛みしめるとそれぞれの食感が弾ける、淡い淡い味の料理でである。
「田鰻と黄ニラ、獅子唐辛子の炒め」。ああ懐かしい。中国産が農薬の関係で輸入されなくなって久しいなあ。
ぬるっ、シコッと歯の間で命を叫ぶ田鰻を、噛みしめていくと、コラーゲンの甘みと海老のような香ばしさが滲み出て、こりゃあたまらない。
「さっき雪蛤出したので、揚げ物も蛙です」と、鴨の砂肝の素揚げと蝦醤に浸けて揚げた、蝦醤鶏ならぬ蝦醤蛙。
蝦醤の塩梅よく、蛙の優しい滋味を持ち上げる。
煮込みは、「豚のアキレス腱と羊、へちま添え」と来たもんだ。
豚のアキレスは200℃で揚げて、そこに大匙二杯の水を入れて気泡を作ったものである。
なんとも危ない、プロの仕事だ。
ソースには、自家製泡菜の乳酸のうま味が効いて、なんともうまい。
するとハスの葉包みご飯が出され、このソースに入れて食べろという。もう困っちゃう。
〆は、大山地鶏のコーンスープ。
鶏の滋味にとうもろこしの甘みが丸みを与え、バラ色のため息をつく。
そして最後は、李醤麺。
搾菜、筍、ピーマン、椎茸、豚肉の餡かけ麺。
食べ進むにしたがって、味が変化していくは、千脇さんの狙い通り。
経堂という土地は、こういう中国料理を食べに来る人たちが多くない。
まして都心から足を延ばすのにも面倒である。最初は麻婆豆腐や担々麺岳を矢部てける客も多かった。
しかし今や夜は、コースで頼む客がほとんどだという。
凡百の中国料理店が多い中で、こうして他にはあまりみかけない、魅力的な料理を出す。
まだ料理人としては道半ばの年頃だが、知識が豊富で確かな技がある。
そしてなにより誠実に料理と向き合う。
都内では中々見かけない、傑出である。
一ヶ月前となるが
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