わくい亭のうまいもの
店の前に立つ。引き戸をがらりと開ければ、客たちのおいしい賑わいが流れ出る。
「いらっしゃいませっ」。大将の涌井優二さんや奥様の純子さん、弟の純三さんが、人なつこそうな笑顔を浮かべて声をかけてくる。
さあ今日はなにを食べようか。
背黒いわしの酢〆やこちの刺身、松茸とはもの天ぷらもいいな。馬刺しやほの甘いレバー刺し(写真)も頼みたい。名物メンチカツやねぎ玉は必須だし、味の染み込みたかんぴょう煮(写真)やなすの焼きびたしも欠かせない。
そう、まずは刺身類から始めよう。鮮度の高い白身魚や貝盛りか、ふわりと甘いうにで、麒麟山紫峰あたりを傾けて、一杯。
次は、じゃがいものきんぴらか芋の甘みが生きたポテトサラダといってみようか。
ここいらでぬる燗に変えて、つぶ貝煮やサクッと揚げられた穴子の天ぷらを肴にしよう。そうそう、トマトのぬか漬けやあたりめの味噌漬(写真)といった、燗酒にぴたりとあう肴も頼まなくちゃ。
ねっとりと舌に流れる鉄分とウースターの旨味を生かした、鶏レバーのウースターソース煮や柔らかいタンの醤油漬けを、パイクス・シラーズに合わせてもおもしろい。
さあここいらで、いよいよ名物の登場だ。長ねぎと玉子の甘みが調和した、美しきねぎ玉で白ワインといくのもしゃれているし、冬なら、ふっくらとした姿と量に歓声が上がる、味噌仕立てのかき鍋をつつくのもたまらない。
忘れちゃいけないのがメンチカツ。長さ十五センチ、幅十一センチという勇姿。ジッジッと音を立てる熱々の衣に箸を入れれば、半透明の肉汁が滲み出る。
カリッと衣に歯を立てれば、甘い肉汁があふれだし、もう笑いは止まらない。
これが本所わくい亭のうまいもん。ん