三田「コートドール」の「冷製季節野菜の煮込み コリアンダー風味」である。旬の野菜類を蒸し煮にしたこの料理は、斉須政夫シェフが自ら日々作っている。
言ってみれば、ただの野菜のごった煮である。
だが恐ろしく味が深い。
濃いというわけではなく、噛み締めていくと、それぞれの野菜の自立した声が聞こえてくる。
だがそれも心を静かにして皿に向かわないと、声は届かない。
この料理は、一年中メニューに載っている。
ある日尋ねてみた、「野菜は季節でも違うし、毎日産地が変わるし、たとえ産地が同じでも昨日のものと違ったりする。一年中ぶれずに同じ味に仕立てることは大変だと思うのですが、一番苦心されていることはなんですか?」
斉須シェフは、微塵の迷いもなく、即答された。
「自分の体調管理です」。
体調が少し荒れて、嗅覚や味覚が狂ってはいけない。
そのためには休日も、営業日と同じ過ごし方を心がけているという。
この料理は、斉須シェフが最も愛す料理である。
「40数年創続けられて、この料理に何か思うことはありますか? と聞いてみた。
「目立たないけど、印象を残す人っていますよね。この料理もさりげない。でも一度口にしたら忘れない。僕は料理を通して、人生観を体得できたと思っています」。
三田「コートドール」冷製季節野菜の煮込み コリアンダー風味
食べ歩き ,