〜三つの白〜
今まで、散々旨味の濃いものを食べてきたせいか、濃ゆい人間性のせいか、血のたぎる青春と火傷するような恋をしてきたせいか(ウソ)、年々淡い味わいに感動するようになってきている。
先日も「世界一の朝食」という食事会に参加したが、そこで心が震えたのは、三つの“白い”だった。
一つ目は、「帯広イノシンさんの長芋」である。
生で棒状に切った長芋の、梨のような食感を楽しんだ後、トロロをご飯にかけてだされた。
トロロが持つ重さが、微塵もない。
トロロを食べて微かに感じる、雑味や野暮がまったくない。
透き通った甘みが、ふわりと舌に流れては消えていく。
はかないようでいて、生命のたくましさも感じる甘みに蕩然となった。
なんという長芋だろう。
その優しさは、ご飯の甘味を抱き込んで、桃源へ旅経つのであった。
二つ目は、冷たいしじみ汁である。
鳥取湖山池のシジミを4キロ分、瞬間冷凍してコハク酸を高め、出汁をとったものだという。
この汁にも、雑味が一切ない。
純粋なコハク酸だけが、柔らかく舌を包む。
普段は気がつかない、シジミ体内の複雑なうま味がある。
冷たいのに香りがあり、凝縮した滋味を感じ、舌を過ぎ、喉に落ち、体中に染み渡っていく。
真の養分に、眠っていた脳のセンサーが目覚め、笑いだすのである。
三つ目は米である。
4回炊きたてのご飯が運ばれた。
一つは宮泉銘醸から届いた会津酒米の煮えばなが出され、次に別の産地からのご飯が2種類、最後は豆ご飯が
出された。
厳選した米による炊きたてのご飯は、最強である。
蓋を開けた瞬間に歓声が上がった、豆ご飯も素晴らしかった。
だが最も心動かされたのは、「山利」の白子をかけた炊きたてご飯である。
白に白。
夏の柔らかく、幼い甘みを持った白子の味が、いじらしく、それがご飯の甘味を一層冴えさせる。
そこには一種の色気さえ漂うのであった。
wagyu mafiaにて