自然の均整美がある。

食べ歩き ,

こういう料理を出されると、ぐうの音も出せなくなってしまう。
京小蕪、蕗、ぜんまいの炊き合わせである。
色々な場所で炊き合わせをいただいて思うが、野菜とは、必要な大きさや形があると思う。
それ以上大きすぎるとアラが目立ち、小さいと本質を感じ取る前に食べ終わってしまう。
それは、人間と野菜との間合いなのであろう。
野菜のおいしさを熟知した料理人が、人間の感覚に響くように整えた大きさなのだろう。
この蕪も蕗も、ぜんまいもそうである。
蕪を口に含んだ瞬間に、「うううん」と、唸ったまま動けなくなった。
蕪の穏やかな甘みが一気に流れ出て、遠くに辛味と香りが、静かにいる。
そこには、圧倒はしない絶大が、人智を超えた自然の均整美があって、心が震える。
蕗は、シャキッと命のみずみずしさ弾ませて、青い香りで人間の身体を浄化させる。
素晴らしく太いぜんまいは、うっすらと甘味を乗せて、昼寝をしている。
「蕪も蕗も塩茹でして、出汁を張っただけです」と、女将は言われたが、こんなに凄みを感じさせるのは、ご主人が蕪の、蕗の、ぜんまいの理りに通じているからにほかならない。
まっすぐ、揺るぎなく、正しく、清らかに、食材の滋味を膨らます。
店名には、その心がけが込められているのだろうか。
「はぁ〜おいしい」。
銀座「慈正」
すべての料理は、タベアルキスト倶楽部にて。