「おうよ。じゃ次の料理いってみようか」。
「わしは、揚げものといきたいなぁ」。
「おっ、いいとこ突いてきたねぇ。掻き揚げは江戸の華。両国のそば屋「ほそ川」でごぼうの掻き揚げがのったそばなんぞ、手繰ってもらいたいねぇ。共鳴っていうんですかい。ごぼう、そば、つゆ、三者の香りが出会って、趣があらあな」。
「趣ときたんか。自由が丘のAENは、太目の笹がきを一本ずつ揚げはってな。塩つけて食べてみい、目が丸くなるほど甘いんや」。
「甘さを強調するたぁ技だね、素揚げで凄いのは、原宿の「月心居」だ。千に切ったごぼうを揚げてね、噛み締めるごとに大地の香りがするって寸法だ」。
「ほな、木枯らしごぼうと紅トカゲていうの知ってはりますか」。
「知らん」。
「木枯らしごぼうゆうんは、溜池山王の「まるせん」ゆう居酒屋で出してるもんで、細笹がきをカリッと揚げて、ビールのあてに最高や。紅トカゲゆうんは、赤坂「忍者」の肴で、ごぼうを長く、そうや三十センチ位の長さに薄く切って揚げたもんや。せんべみたいで病み付きになるらしいで」。
「いやあこうしてみるってえと、料理の幅が広いねぇ。でも魚やら肉とあわせたり、洋もンやら、まだまだあらあな。その辺は次回以降ってことで」。
「よろしいな。ごぼうの寛大なる許容量を知ってもらいましょ。ところで滝野川はん、これからどないするの」。
「いやあもう師走だろ。正月に花びら餅になる親戚に、別れを告げにいくのよ」。
「あの求肥と味噌餡に包まれた菓子かいな。菱葩餅とか包み雑煮ともいう宮中行事がルーツの菓子やな。めでたいなぁ。うちとこ堀川は「川端道喜」やけど、東京はどこのや」。
「阿佐ヶ谷の「うさぎや」てぇ店だ。あそこは仕事がしっかりしてるからな」。
「せやけど、なんで菓子にごぼうなんやろ」。
「白味噌餡の甘みにごぼうの香りが妙に合うから不思議だねぇ。なんでも昔は、お歯固めていう長寿を願う儀式で押し鮎や鰯の干しを食べてたン。それがごぼうに変わったらしい。でも、正月から大地のありがたみに感謝するてぇ意味も、あるんじゃねえの」。
「ほんまかいな。日本人らしい、しか思いつかへん発想。大切に伝えていきたいねぇ」。