丸の内 「bye bye blues」

海の国からやって来た。

食べ歩き ,

明日素敵なレストランが誕生する。
シチリア島の首都、パレルモから丸の内にやってきた「bye bye blues」である。
「日本の食材で何が一番好きですか?」と、来日したシェフのパトリツィアディベネディエトさんに聞いてみた。
「魚です」と、彼女は即座に答える。
海に囲まれたシチリア人にそう言われると、無性に嬉しい。
プリモピアットはそんな日本の魚を使った「イカスミのカバテッリィ ヤリイカと高海老ウニのスプーマ」だった。
バイバイブルースのあるモンデッロの海の香りを表現したパスタ料理だという。
カバテッリにイカ墨を加えて海底の火山岩の色に見立て、海老、イカで作ったソースと和え、雲丹の泡が乗せてある。
一口食べると、穏やかな海の豊穣が、ゆっくりと口の中で花開く。
雲丹は出過ぎず、そっと自身の甘みを漂わす。
なんとエレガントなパスタだろう。
パトリツィアさんの優しい目に似た、心の景色を凪に変えてくれるパスタである。
主菜はマグロだった。
日本人に、加熱したマグロ料理を出すのは難しい。
生で食べるマグロの魅力が、身に染みているからである。
しかし黒オリーブと食パンのペーストを纏わせて、オーブンで焼いたマグロは、加熱が精妙で、しっとりと口の中に広がっていく。
マグロの鉄分からくる酸味に、オリーブの塩気とほろ苦みが加わって、丸いうま味が生まれている。
思わずワインが恋しくなった。
添えられたナスのカポナータのジェラートと合わせれば、口の中でジェラートが溶け、温度が上がり、シチリアらしい甘酸っぱさが顔を出す。
マグロと食べて目を閉じる。
するとシチリアの太陽が、ゆっくりと大海に沈んでいった。