台所への道

食べ歩き ,

  • 帆立卵

  • 平目

  • にしん

  • もやし

  • 鮭麹

  • たち

「あーら牧元さん。覚えてるよー。会いたいわー。わたしはすっかりおばちゃんになっちゃったけど」。
6年ぶりに電話した。
相変わらずかわいい、津軽なまりの女将さんに、無性に会いたくなった。
根津の「みぢゃけど」は、日本に生まれたことを深々と考えさせ、ありがたみを降ろしてくれる店だ。
長く培われて来た郷土料理の力強さと素朴さを、民族の知恵を、なんのてらいもなく、味あわせてくれる、貴重な店だ。
なんて偉そうなことをいいながら、ずいぶんのご無沙汰。
今回訪れたのも、どうしてもお連れしたかった人がいたから。
ややもすると、朴訥な味すぎて、都会の雄弁な味になれた人にはピンと来ないかもしれない。
だがその人は、味だけではなく、味の背景に隠された母の愛情も、店に漂う雰囲気も、女将さんや親父さんのお人柄も愛してくれるはず。
そう思うとお誘いせずには入れなかった。
誘うことを理由にして、いけることも大きかったけどね。

「味付け身欠きにしん」
噛む。噛む。噛む。
味がゆくっり時間をかけて深みを増してゆく。
鈍っていた味蕾が動き出す。
「茸のおろし」
ざもだし、なめこ、桜しめじ、まいたけ。
茸採り名人を自負する親父さんぉ手による。

「八甲田山、白根山にとりにいくんだ」と嬉しそう。
「地もやしの炒め煮」
300年前より大鰐温泉にて、温泉の熱気を使って栽培されてきたもやし。
もやしの概念を変える。
「ジャキッ」と、音が響き、甘い。甘い。

 「むし帆立の黄味がけ」
穏やかな甘みにあふれ、心がすうっと軽くなっていく。
 「寒平目の昆布〆」
見事、立派。
醤油に漬けずとも、そのままで。
うまみがねっとりと、舌にしなだれかかる。

 「鮭の押し寿司」
米ではなく麹で作ったもの。
ゆえに香りが華やかで、食べた瞬間に笑顔が浮かぶ。
これでお茶漬けにしたい!!

「じゃっぱ汁」
本日のメインイベント。
「牧元さん。目玉と口とエラ、入れておいたからね」と、耳打ちされる。
ありがとう。
脂ののった白子、目玉、くちびる、弾むような身。
鱈に力がある。
誇りがある。
鱈の生命力に鼓舞される。
そして野菜
鱈と拮抗するほどの逞しさ。
土のにおい、甘味、エグミがあって、大地の凛々しさと温か
みを内包して、食べる喜びを感じさせる。
特に人参
すべて津軽産。
店名は津軽弁で沼への道、転じて台所への道。
「みっちゃん」。
70歳代のおやじさんが、女将さんをそう呼んでいたのを聞 いた。
「久しぶりに会った、おばあちゃんの家に来てるみたい」。
ポツリと連れが呟いた。

よかったさあ。
みぢゃげど

閉店