「はいっ、きくです」。
電話口の向こうから流れてきた快活な女将の声に、嬉しくなった。
「はいっラミティエです」。高田馬場のフレンチに電話した時もそうだった。明るいマダムの声が、心を弾ませ、期待を募らせる。
ただ明るいのではない。働く喜びと、店に対する誇りが声に滲み出ていて、嬉しくなっちゃうのだ。
声は人の気持ち映す。
「きく」の女将は素晴らしい人だ。
店全体の料理の進行がよどみなく行われるよう、常に気を配り、飲み物がなくならないよう目を配る。
料理の説明を求めれば、思わず食べたくなる。
で、いつも食べ過ぎる。
この日も調子に乗りすぎた。
帰り際、階下まで見送りに出てくれた女将に別れを告げる。
曲がり角で振り返ると、女将は、背伸びして、懸命に手を振っていた。
コロッケ、肉じゃが、丸干し、ポテサラ、焼きなす くりから焼き タコ、鱧、トマト、鮎一夜干し