「少しつまんで握りをいただきます」。
そういうと。
「あわびはどうですか?少し高くなりますけど(笑)」と、ご主人が正直にいう。
「いただきます」
燗酒を頼み待つ。
しなやかな鮑を噛むと、塩気の品に持ち上げられた甘みが滲み出る。
酒の甘みと合わせると、なぜか鮑は艶を出す。
肝を、少しずつ、舐めるように齧り、酒を飲む。
すでに一本飲んだ。
アジの造りを頼む。
キレのいい脂が、舌に滑っていく。
「では握りをください。赤みと小肌を」。
赤みの鉄分でほんのり鼻息が荒くなった気分を、小肌の酸味で切る。
こちらの小肌はきっちりと締めてあって、酢飯と食べると、喉がくっと鳴る。
嬉しいじゃありませんか。
「貝は何がありますか』
「青柳と鳥貝です」
「両方ください。青柳たあ珍しいね。最近の寿司屋では滅多にみないですねえ」。
続いて、マコガレイ、アオリイカ、ちだい、アジといき、再び小肌を握ってもらう。
最後は煮ものかな。「煮蛤と穴子をください」。
じっくりと蛤とアナゴを楽しんだ後は、玉子を握ってもらった。
昔ながらの薄焼きで甘味をおさえた玉子は、酢飯と出会ってこそ真価を発揮する。
こいつでも酒を飲めるってえ寸法さ。
「じゃそろそろ巻物をお願いします。半分ってできますか? 鉄火巻に小肌を生姜と巻いて、最後に干瓢巻を」
「かしこまりました」。
こうして食べる寿司を、こよなく愛す。
銀座「鮨こばやし」にて



















