果物にフィレはない。
自ら動くことがないので、異なる筋繊維がないからである。
だが料理は「マンゴーのフィレ」と名付けられていた。
精妙にカットされたマンゴーにココナッツソースがかけられ、白い皿に置かれている。
勝俣シェフは、マンゴーを分解し、種を乾燥させて繊維を調べてみたのだという。
すると縦方向には落下防止のために太い繊維が走り、種の真横方向には果汁保持のために、細い繊維が入っていることを発見した。
皆さんもマンゴーを食べた時、繊維が歯に挟まった経験があろう。
あれは縦繊維が原因だったのである。
この料理は、種横の細い繊維部分だけを切ったものである。
一皿でマンゴー三個分はあるという。
横に切り出した果肉を、5.6cm、5.9.cm、6.2cm、にきって、一晩ソーテルヌでマリネし、間に一ミリの薄さに切ったパイナップルを挟んだテリーヌである。
「メンタルがやられるのは桃ですが、体がやられるのはマンゴーで、肩が動かなくなりました。大変なんですよぉ」と、シェフは軽くいうが、正確無比に切り出すには、多大な負担がかかるのだろう
一切れを半分に切って口に入れる」。
その瞬間マンゴーは消えた。
上顎と舌で押しつぶしただけで消えた。
口の中では、気品ある甘みさが揺らぎ、熱帯の夜が香る。
後に漂う香りは情熱的でありながら、華奢な儚さがあった。
心は濡れて、溶けていく。
デザートという甘美な夢の奥深くへ、泳ぎ進んでいった。
白金「Yama」にて
宮崎県鬼束さんのアーウィン種による「マンゴーのフィレ」。





