四谷「大はら」

「ありがとう」。

食べ歩き ,

その饅頭は、唇に優しく触れると、はらりと舞い散った。
はかない。
はかないが、百合根が持つ優美な甘みが次第に膨らんで、心を温める。
中から、煮穴子が顔を出した。
しかし穴子は自分の役目を知っていて出過ぎない。
儚く優美な甘さを引き立てるアクセントとしての量をわきまえている。
食べながら、なくなっていくのが悲しくなった。
「ありがとう」。
次第に小さくなっていく饅頭にそう言って、別れを告げた。
1月の先付 百合根饅頭。