煮込みが好きな料理人に悪い人はいない。

食べ歩き ,

煮込みが好きな料理人に悪い人はいない。
勝手にそう思っている。
煮込み料理は、仕込んで火にかけて、放っておけばいいから、楽だろう。
そう考えるムキもあろうが、そうではない。
鍋の中に入っている肉が、野菜が、豆が、今どんな状態か?
野菜と肉が出会い、どんな関係を築きつつあるのか?
常に頭の中で、的確に想像し、描き続けなければならない。
そしておいしくなれ、おいしくなれと念じ続ける心が、味を深めていく。
鍋に入った食材を、愛情を込めて見つめ続ける眼差しと、食べる人への思いやりがなければ、おいしい煮込みは生まれない。
そんな時間が好きな人に、悪い人はいない。そう思うのである。
奥野シェフも煮込みが好きなのだろう。よく出してくれる。
今回のお題は、「アンコウと百合根」という無茶振りだったが、テーマを前菜2品でさっさと出し、煮込み料理を二皿出してきた。
一つは、愛農ポークのスープと自家製バターとライ麦パンで
ごぼうのコンフィと、ローストした白菜のエキスと豚の様々な部位のスープである。
スープとしているが、煮込み料理に近い。
愛農ナチュラルポークらしい、済んだ甘みと野菜の太い甘みが抱き合った味が、舌を丸く包み込む。
そこへ、自家製バターの美しいコクが加わって、味を膨らます。
最初に一口飲むと、一瞬にして、みんなの顔が輝いた。
いい煮込みは、頭で食べない。
本能に直接訴える。
もう一つは、近江牛テールの煮込みのタリアッテレである。
噛んで噛んで噛む。
コラーゲンやら凛々しい筋肉やら、鉄分やら、様々な滋味が湧き出て、その中を粉の甘みが追いかけて流れていく。
ああ。うまい。
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