5月は鰹の分厚い刺身 里芋の煮っころがし 6月は鯵フライ 普通の豚玉 青椒肉絲。
到底イタリア料理店への注文ではない。
無茶振りである。
だが負けず嫌いで、誠実な奥野シェフは、いつも想像をいい意味で裏切ってくれる。
先月驚いたのは、里芋の煮っころがしであった。
どんな食通や料理人でも、これを見て、里芋の煮っころがしと答える人はいないだろう。
玉ねぎと里芋蒸してから,牛乳入れてヴィシソワーズ風な味付けにして,ディルのオイルをかけられている。
バイに甘みがあるのが、芋の甘味と馴染んで、目を閉じると、里芋がフランス人と結婚して、子供を産んだような気分となってくる。
一方、鰹の分厚い刺身は、ロサンゼルスに旅をしていた。
なんとタコススタイルである。
行者ニンニクオイル、チシャ、エゴマ、サルサヴェルデ(ハラペーニョ、きゅうり、緑ピーマンなどを回して)とカツオを、野菜で巻いて食べる。
笑ってしまうような、楽しさがあった。
高知の人間に食べさせたいなあ。
6月の無茶振り、傑作は青椒肉絲であった。
牛肉の細切りと筍、ピーマンと、構成は青椒肉絲そのままである。
だが牛肉の細切りと筍は、塩 無糖ヨーグルト クミンパウダー コリアンダーパウダー パプリカパウダー カイエンペッパーパウダー オイスターソースで炒め、生のピーマンに載せてある。
これまた、アリである。
青椒肉絲がトルコに行って、アレンジされ定着したような、味の馴染み方があって、自宅でやってみようと思った。
普通の豚玉は、「普通の」とつけてしまったがゆえに、苦労したという。
変えようがない。
このために普段使わない、紅生姜と鰹節も買ったという。
そこで普通の豚玉を作り、お好みソースをかけるわけにいかないので、発酵野菜とフォンティーナチーズによるソースをかけた。
北イタリアのアオスタに旅し、家庭に招かれたら、豚玉そっくりの料理が出てきたらこれだった。
そう思ってしまうような、これも創作で作られたとは思えぬなじみ方をしていたのであった。
最後のアジフライであるが、「アジフライ作るなら、前田さんの味を使いたいです」と言われて、お願いした。
さすが前田さんのアジである。
筋肉の張りが素晴らしく、ムチムチとしている。
半生にコトレッタ風に仕上げられたアジフライには、フィンガーライムを入れたグリビッシュソースがかけられている。
このフィンガーライムを混ぜたところが憎い。
その食感とフレッシュな酸味が、この澄んだ味わいのアジを、より清らかにするのだった。