森羅万象、すべてのものには、両面や両極がある。
弱々しき体躯に秘めた強靭な精神。
凛々しき性格に隠した、もろい心。
食材でもそうである。
肉汁が溢れ、生命力を鼓舞する牛肉に内在する、穏やかな滋味。
まろやかな魚の味わいに見え隠れする、たくましさ。
肉に香る草の香り、魚に香る昆布の香り。
生命である限り、多様性を持ち合わせている。
リオネル・ヴェカシェフが作る料理には、いつも「一面だけで見てはいけない。既成概念にとらわれては行けない」ということを教えられて、ハッと胸を刺される。
稚鮎の成魚に負けない苦味の凛々しさと、切ない身の甘み。
旬のアスパラガスの香りや甘みの中に潜む、エレガント。
そのアスパラが、貝類のミネラルと手を結んだ時の、自然観。
エレガントな車海老に漂う、エロシチズム。
ジロールの香ばしさの陰にいた、優しさ。
タチウオの、心を溶かす上品な甘みの中に見つける、豪胆さ。
仔牛の弱々しさを噛み締めていくうちに見出す、獣性。
一皿ごとに思う。
タベアルキストとして年間600食を食べると豪語しながら、食材の一面しか見ていなかった、自分を恥じる。
しかしそれ以上に、新たな魅力を見つけた喜びで、体は満たされる。
地球上で、共に生き暮らす生物たちへの感謝が浮かぶ。
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