最後は、天ぷらをご紹介したい。
「前平」で驚いたのは、海老であった。他と変わらぬ巻き海老ながら、一口噛んだ瞬間、海老が爆ぜた。
他所のように全身を伸すことなく、尻尾の際だけ伸しているという。それによって海老の筋がいきるため、噛みしだく食感になる。
結果としてよく噛む。
噛むことによって海老の甘い風味は増大して、我々を幸福にするのである。
このような工夫が随所に見られる。
ネギの青々しい香りが小柱の柔らかい甘みを輝かせるメネギ小柱。
一筋縄ではいかない根菜の力強さを詰め込んだ紫人参。
ペーストした枝豆団子に固茹で枝豆を射込んだ、枝豆。
添えた花山椒佃煮と食べさせる鱧。
食べかたとして最高だと思わせるマッシュルーム。
個体を丸ごといただく感がある、肝醤油につけて食べるアワビなど、よそでは見かけない天ぷらに、笑い、しびれる。
天ぷらの未来がある。
シンプルな良さを熟知しながらも、より素材の力を生かすにはどうしたらいいかを突き詰めた、正道がある。
そう、今回ご紹介した「新江戸前」の仕事は、邪道ではない正道である。
本来は鰻の産地違いを表した「江戸前」というという言葉は、今では「江戸流の仕事という意味も含む。
「新江戸前」とは、伝統的な仕事に新たな技や工夫を加える。
それは従来の仕事を踏襲しながら、もっとおいしくする方法はないかと日々考え、模索し続けた賜物である。
その姿勢こそが、連綿と続く「江戸前」の仕事であり、伝統を生かすことなのではないだろうか。