ろうばいが片隅で、可憐に花を咲かせた店内に、ホワイトボードが掲げられていた。
「開業昭和39年五月一日。
食べ物は人の運を開き、人生を変える力が有と信じ、街の人の忘れかけた田舎の味
そんな何かを求め走り続ける」。
続いて「倖せの条件」と書かれ、五つの条件が書いてある。
2、 朝起きたときに仕事がある。
3、 人間関係が豊かである。
4、 感動できる心がある。
5、 少しお銭がある。
いつもこの言葉を確かめにこの店に行く。
清く正しく楽しくをモットーにしている82歳の京子女将に会いに行く。
今夜の突き出しは「ぐる煮」だった。
十二月二十一日のお仏事に振舞われる郷土料理だという。
大根、ニンジン、ゴボウなどの根菜といささかの小豆を焚いたもので、根菜仲間煮だから、“ぐる”と呼ぶのだそう。
二月三日のお仏事には、小豆を増やして、「おいとこ煮」を作る。
薄味の出汁に根菜の滋味が滲み出た味わいは、初めて食べるのに懐かしさが漂う。
今年も一年無事で過ぎました。良い年が迎えられますように。
そう祈りながら、丹念に煮込まれたぐる煮は、慈愛の味が染みていた。