一度やってみたかった

食べ歩き ,

一度やってみたかった。
「大黒」で昼から酒をやって、惣菜を好きなだけ頼む。大人飲みである。
いざ。と意気込んで店に入れば、拍子抜けした。
客はほとんどが20代、おっさんは私一人なのである。
前に来た時は、年配の客ばかりだったのに、随分と雰囲気が変わったのはどこかで紹介されたのだろうか。
でもよく考えれば20代の男女が、ファーストフーズに走らずに、由緒正しきかやくめしの定食屋に来ていることが、素晴らしい。
目の前は20代の女性二人連れで、かやくご膳の千円に、カレイの煮付けと鯖焼き物で1600円。
後から来た、中国人の20代前半のカップルも、同価格である。
7人組の全員黒Tでキャップをかぶった20代の男性チームも、かやくご膳大盛りに、焼き魚を追加している。
日本の未来は明るいぞとばかりおじさんは嬉しくなって、ビールと「胡瓜もみ」に「ひじき煮付け」、「なす丸煮」を頼んだ。
胡瓜の爽やかな香りと味付けの酸味で、うだる夏を吹き飛ばして冷たいビールを飲む。
ついでに常温の酒も注文して、とろりと甘く溶けるなすを舌の上に乗せて酒と出会わせ、煮汁の濃さがほどよいひじきに眼を細める。
よし調子が出てきたと、南京煮付に酢ごぼう、小松菜と油揚げの煮付けに酒をもう一合追加注文し、かやくご飯大盛りをワシワシ食べる若者の横で、一人ほろ酔い状態である。
最後に、シマアジ焼き物とかやくご飯小、白味噌仕立ての豆腐を頼んで、じっくり楽しもうと思った矢先、横目に不満が映った。
別の20代カップルである。
結構頼んでいて、それは偉い。しかし男の食べ方が変なのである。
こちらが刺されそうになる攻撃機的握り箸に、食べては箸を舐めるねぶり箸、空箸に刺し箸とタブーの勢揃いである。
お嬢さんこの男子と付き合うのはおよしなさい。と、心の中でつぶやきながら仕方なく、、なるべくそちらの方を見ないようにして、有終を迎えたのである。