一口すすった刹那、崩れ落ちた。
「人生最後の日に食べるものは、これしかない」。
咄嗟に、頭に浮かんだ。
東京で散々食べなれたニンニクのスープ。
なにげなく口に運んで、全身が押し黙った。
穏やかで深い滋味が、 舌を過ぎ、 喉に落ち、 身体に染み渡っていく。
言葉が出ない。
飲んだ後、充足のあまり黙り込んでしまう。
「おいしい」。とも言えない圧倒がある。
優しさがある。
自家製生ハムのダシがなせる味だけではない。
ニンニクに対する、深い敬意が満ち満ちている。
凄みは連続していく。
「季節の野菜の煮もの」。
なんと慈愛に満ちた味だろう。
生ハムのダシで煮含められた、ジャガイモ、グリンピース、ブロッコリー、蕨、根曲がり筍、カ</strong>リフラワー、人参。
それぞれの持ち味を生かした絶妙な柔らかで 身体をいたわるように、
甘い。
甘い。
「ウニのスフレ」。
スフレをふわりとすくうと、中からミディアム状のウニが現れる。
口に入れると、香りと甘みが爆発した。
即死。
「ふうっ」とため息一つ。
あとは笑うしかない。
イカスミもハンバーグもパエリャも今まで食べてきた代物と、格が違う。
異国の文化を敬い、地元の食材に愛情を注いできた、深谷シェフならではの、心を動かし、晴れ渡らせる健やかな料理。
函館「バスク」。