名古屋「Settanta」

「やるしかない」。

食べ歩き ,

繊細でエレガントな前菜が3皿出された後、いきなり肉がやってきた。
マグレ鴨ローストである。
白アスパラガスの拙い甘さと香りが閉じ込められたパンナコッタに、甲殻類の甘みが凝縮したソースに絡まるオマール海老、ミルクとバターで優しい甘みを膨らませる、じゃがいものテリーヌと続いて、いきなり肉である。
だが、前菜で存分に刺激された食欲は、肉の滋味に狂喜する。
鼻をふんと鳴らし、血を滾らせながら肉にかじりつく。
料理の最後に出される満足とはまったく違う感覚がある。
肉のコーフンのあとは、一転してまた前菜である。
白トリュフを散らした、冷たいカルボナーラは、塩を抑え、静かなうまみを広げて、上気した精神を鎮めるのであった。
次にフリットされたズッキーニの熱で、風味を濃くさせたプレザオラ、優しい甘みを滴らせる甘鯛と続き、最後はパスタである。
ナスとウニのパスタであった。
立派なウニがゴロンと乗っているが、ウニは主役ではない。
焼いたナスの香りが主人公で、それをウニの甘みがそっと持ち上げている。
コースの流れに起伏があり、感情の揺らぎが生まれ、それが次第に大きな調和となっていく。
「なぜ前菜の後に肉なんですか?」と、水口シェフに聞いてみた。
「肉を食べる頃にはお腹一杯になってしまうでしょ。お腹の具合は、最後のパスタで調整しますから」。
「起伏ですか?」と、聞くと
「はい。そうです」といって、手を動かして山と谷を作り、微笑まれた。
やはりそれが、本心なのだろう。
最後に厨房を見せていただくと、壁には師匠から贈られた言葉が飾られていた。
ミシュランで星がついた時に、送ってきたのだという。
大きな丸い字で書かれた言葉は、厨房で働く人たちの情熱を掻き立てていた。
「やるしかない」。
名古屋「Settanta」にて