シチリアはパレルモにあるその食堂は、パスタしかない。
パスタ以外で唯一あるのが、このじゃがいも料理だけだという。
茹でたじゃがいもとトマトを混ぜ、ヴィネグレットであえた料理である。
中村シェフはこの料理を愛しているのだろう。
以前から出していたが、今回は三種のじゃがいもで再現した。
じゃがいもとドレッシング、トマトという三種類の要素しかないのに、なんでしみじみとおいしいのか。
一皿を一人で独占し食べたくなるのか。
酸味と塩気にまみれただけのじゃがいもは、楚々としながら、甘い。
いやただの酸味と塩気ではない。
強気の酸味と塩気を使いながらも、行きすぎない、ギリギリの際を決めているからこそ、芋が生きているのである。
鹿児島清正農園のビエトラを、徹頭徹尾長時間煮た「青菜のクタクタ」における、菜っ葉の生命力といい、リコッタとペコリーノを加えただけなのに、優しい甘みに感謝したくなるそら豆といい、どこにでもある食材から奇跡を生み出す中村シェフの料理を、阿部ちゃんの軽妙なサービスと料理を愛する説明を聞きながら酔っ払う時間が、大好きだ。
四の橋「ロッツォシチリア」にて。