三越前「蟹王府」

上海の夏。

食べ歩き ,

上海のお金持ちたちは、多分こんな料理を専属料理人に作らせて、食べているんだろうな。
そう思わせる、「蟹王府」の夏のメニューである。
前菜はいかにも涼しげな東岸料理から始まる。
上海では、夏に冬瓜、高菜 枝豆 豆腐 魚などを塩漬け発酵させて、その臭いやつを食べるという。
そんな料理の一つ「寧波式冬瓜の漬物 宁波冬瓜」から始まる。
塩漬けした冬瓜を、低温で80分蒸し、葱油 白酢で味付け、上にバルサミコボールをあしらった料理だという。
中からチュッとエキスが飛び出て口の中に広がり、漬物が持つ酸味が食欲を刺激する。
 
続いては、「マコモダケと蟹肉の煮もの 蟹粉煮菱白」が運ばれた。
青唐辛子を漬け込んだ辛酢で味つけてあり、あっさりとしていながらも後から絡みが顔を出す。
その品のいい塩梅がなんとも心憎い。
二品冷前菜が続いた後で、温かいスープが供される。
 
「コブミカン風味の魚の浮き袋のスープ 佇香花腋拆桧魚羹」である。
濃厚な魚の滋味をたたえたとろりとしたスープを、コブミカンの爽やかな、エキゾチックな香りが軽やかにする。
 
続いて先日も書いた「豚肉 バジル エビのすり身唐辛子詰炒め 九塔煎酸辣椒猪肉」である。
甘酸っぱく辛い味が、一口食べた途端に「ご飯!」と叫びたくなる代物で、食欲がさらに増していく。
 
お次は、「渡り蟹とかぼちゃの煮込み 南瓜燜梭子蟹」である。
迫力ある姿を見ながら「蟹とかぼちゃは合うのかなあ?」と思いながら食べてみた。
合う。実に合う。
蟹の甘みやかにみそのコクと、かぼちゃのほっこりとした甘みが出会うと、
のほほんとした気分になる。
これまたいい出会いだなあ。
 
そして最後は、「キンキの煮込みと揚げパン 红烩金鱼配油条」である。
黄豆醤、豆板醤、辣油、醤油 ナンプラー、砂糖で煮込んだキンキは、脂が乗って、それがこの濃厚な味をさらに膨らます。
そしてこの魅力的なソースに油条を浸けて食べるのである。
まあフランス料理の、ソースをパンで拭う美味しさであるが、油で揚げたパンなので、余計に危険度が増す。
最初はすでにご飯も食べているし、一個だけでいいやと思っていたのが、止まらなくなる。
ぬぐってはまた手を伸ばし、最後はソースまみれにして食べてやった。ハハハハ。
そしてデザートはこれまた夏仕様、棗、タピオカ、生姜による汁粉ときた。
小さな四角に切られた生姜の刺激が、甘みの中でヒリリと効いて、暑い夏が遠のいていく。