「いらっしゃぁーい」。
戸をがらりと開けると、明るく柔らかい声に出迎えられた。
声をかけてくれたのは、三人のおばあちゃんである。
四万十市にあるその店の名は、「しゃえんじり」という。
「しゃえんじり」とは、このあたりの方言で、「しゃえん」は野菜の意味、「じり」は畑の意味、つまり野菜畑を意味するのだ。
店に入れば、近隣農家のおばあちゃんたちが作った料理がずらりと並ぶ。
これが食べ放題という、高知郷土料理バイキング方式食堂なのである。
店は13年前に始まった。
昔は林業が盛んで、近所にはたくさん商店もあったが、次第に衰退していく。
農業を続ける老人は多かったが、他に働く場所はない。
それならと、食べきれない米や野菜は買取り、農家のおばあちゃんが料理を作り働く場所を作ろうと考えて始めたのだという。
店は、繁華街から遠く離れ、しかも昼過ぎだというのに、次から次へとお客さんが入ってくる。
様々な料理を皿に盛って、おいしそうにご飯を頬張っている。
ここには、都心の大衆定食屋にありがちな殺伐感やあわただしさは、一切ない。
のどやかに、ほがらかに、みんなゆったりと料理を楽しんでいる。
もう食べる前から嬉しくなってくるではないか。
それでは食べよう。
ああ、おかわりは自由だとわかりつつも。どれから食べようかと悩む。
サツマイモと人参のかき揚げ。大根とコンニャク煮。しゃえんじぇり風ちぢみ。
菜花とブロッコリーの酢味噌ぞえ。
生椎茸を揚げて土佐酢につけて食べる、椎茸のタタキ。
乾燥豆を戻して、揚げてから味噌と砂糖をからめた、豆煮味噌。
シラタキのきんぴら。春菊と人参の白和え。柚香。筍煮。季節のチラシずし。
汁は熱々を注いでもらい、ご飯も白飯も五穀米もあり、「コロッケ揚がったき」と、途中で熱々の鹿肉コロッケが出て来たりもする。
よく「産地直送レストラン」「地産地消レストラン」と名を上げるところもあるが、ちゃんちゃらおかしい。
ここは周りの畑や里山で採れたものだけを使っている。
当然、海の魚はないが、おばあちゃんの知恵が詰まった豊かな惣菜がある。
主催者のおひとり、岩本さんに話を聞いた
「楽しいです。四季折々の食材があるき。春は山菜のワラビ、イタドリ、たけのこでしょ、夏はキュウリ、ナス、かぼちゃ、秋はツガニでご飯にしたり汁にしたり、冬は鹿肉やらイノシシ肉も出すき。毎日が楽しいです」。
そう語るおばあちゃんたちは、全員が70歳以上だという。
おばあちゃんが元気な国は、食文化が豊かだ。
同時におばあちゃんが元気な地は、幸せに満ちている。