「野菜がおいしいから、料理をすることがさらに楽しくなります」。そう言って、渡辺さんは、嬉しそうに笑った。
軽井沢で、渡辺万里さんに料理をご馳走になった。
軽井沢サラダファームから届いた野菜は、まだ命の躍動があって、生き生きと舌に迫ってくる。
茄子は焼かれてもみずみずしく、ズッキーニはほろりと甘く、万願寺は皮をパリリと張りつめさせている。
トマトも葉野菜も、ブルベリーの甘酸っぱさの中で、どこまでも自由だ。
「レシピを教えて欲しくて何度もそのバルに通いました」という、赤ピーマンのオリーブ油煮は、結局教えてもらえず、舌に染み込んだ味を再現したという。
赤ピーマンを前歯で噛むと、確かな歯応えはあるのだが、その瞬間、とろりとムースのように甘く溶けていく。
油のコク、微かな酸味の中で、赤ピーマンとはこんなにも甘みがあるものだったとか驚く。
ひよこ豆は微かに辛く、その辛味の中から豆の甘みが滲み出て、止まらない。
前菜のムール貝のマリネは、潮の香りのする港町のマンサニージャとぴたりと合って、食欲を刺激する。
そしてパエリャ。
骨付き豚肉、豚ばら肉、燻製豚肉、ズッキーニ、キャベツ、軽井沢インゲン、ヒヨコマメ、トウモロコシ。
そのすべての滋味を吸って、米が笑っている。
ほっこりと優しく、心を温める。
お腹がいっぱいなのに、もう一口、もう一口とスプーンに手を伸ばしてしまう。
大地の力強さが染み込んだ味わいこそが、パエリャなのだろう。
食べる人のことを思いやった、ママァの味わいなのだろう。