秋澄む。

食べ歩き ,

秋澄む。
月もくっきりと輝いて、虫の音、草木の気配がすぐそばに感じられる季節がやってきた。
昨日は中秋の名月、10/21は十三夜がやってくる。
今月の「大夢」の題は、そんな季節、月と宇宙がもたらしてくれる感謝と恵みのお料理である。
玄関には三日月が飾られ、月の神様に通じる蔓のものが飾られている。
月の神様に捧げた、山帰来とリキュウソウとぶどうの葉っぱである。
部屋に入ると虫の鳴き声が聞こえた。
部屋の片隅に、黒塗りの箱が置かれ、絹衣がかけられている。
その中に、カネタタキに鈴虫と、五種類コオロギがいれられているという。
様々な虫の音が、部屋に忍び寄る。
床には、満月に秋草、花野の景色が広がっていた。
ワレモコウ、コエビソウ、ミシマサイコ、桔梗、草牡丹、りんどう、しおん、ひがんばな、とりかぶと、ふじばかまにほととぎす、鶏頭、野紺菊、ガマの穂。猫じゃらし。
秋の情趣が心に満ちていく。切なく、ありがたい。
1.煮物椀:「皓月」;煌々と光り輝く月を表したお椀である。
 翡翠色の新銀杏の真薯に、秋になって味に落ち着きが出た巾着ナスを揚げて煮含めたもの。ゆず皮は青海波に飾られ、秋草の如し。椀蓋裏は幸福を呼ぶ蝙蝠。椀底にはススキ。ほのやかなる銀杏の甘み、茄子の滋味が体に滴り落ちて、しみじみと、ああ、しみじみとおいしい。
2.向附:「萩」;一塩甘鯛の糸造り、糸干子添え。白いかの糸造り。アマダイをまずはなにもつけずにそのままで食べれば、ねっとりと舌にからみつく。平造りでない糸造りにした意味があり、その寸の大きさが、舌と出会って色気を醸す絶妙を計算されている。干子をかまして食べると、アマダイの香りが過ぎ去った後に干子がやってくる。艶の揺り戻しである。包丁目を入れるほどに甘みが増すイカは、こまめな包丁目が入れられて、ねろりと甘い。
3.揚げ物:「月見」;月見団子仕立てである。「塩大福ではありません」と、冗談を言って出されたそれは、唐津の塩水ウニを餡にし、黒豆を射込んだれんこん餅である。傍に夏の名残としての伏見唐辛子が添えられる。まず伏見唐辛子が素晴らしい。青々しい香りを放ち、揚げられてもなお生きている気配がある。そしてれんこん餅は、朴訥な甘みをにじませ、ウニはその中で加熱されたウニとしての風味を膨らまし、黒豆は食感のアクセントを楽しませる。
れんこん餅は滑らかで淡い甘みがあり、そこへ豆の甘い香りがたち、ウニの昆布の香りが追いかける。
4.煮物:「秋果」;広島の希少なイチジク、蓬莱柿(蓬莱から来た柿のように甘いことからこの名がついたという)をむしたものに、冬瓜。冬瓜は炊いてからこままく崩してソース状にしたものと、かたまりで炊いたものが合わさられ、茗荷が二片。 FB参照
5.焼物:「むつ」 赤むつの塩焼き。のどぐろだが、この大きなサイズゆえか、脂はみっちりと乗っているのだが、脂がだらしなくなく、澄んでいる。品が漂う。むつの語源は、北陸で脂っこいことを「むつっこい」と言いたことから転じたとか。
6.ご飯物:「もずく」。もずく雑炊。雑炊といっても炊いてはいない。熱々のだしを張った器に、丹念に掃除されて口当たりが滑らかになったもずくが沈められ、そこへ炊きたてのご飯がそっと置かれ、天におろし生姜といった具合である。
ご飯を少しずつ崩しながら食べれば、炊きたてならではのコメの甘い香りに、残部と潮の香りが溶けていく。付け合せは長芋の梅干しと鰹節まぶし、こいつも心憎い。
7.水菓子:ぶどう6種。宝石箱である。
8.菓子:「千里香」千里の先まで香るという日本三大香木の一つである金木犀のお菓子。金木犀は天上の花と言われ、生い茂る頃にお月様が輝くとされた。甘い香りが心と体がいやす。吉祥の花である。金木犀を入れ込んだ炊きたての餅米に、さつまいもの餡。
9:薄茶