店に入ると、女子高生バイトの子が、大きなボウルに入れたもやしに味付けして混ぜていた。
茹でたてゆえに、湯気が朦々と上がっている。
手前の厨房では、従業員が艶やかなレバーを切り、奥ではご主人が肉の塊を掃除し、切り始めている。
この光景を見ただけで、「ここはうまい。間違いない」と、確信した。
大阪は小路という初めて降りる駅の焼肉屋である。
小学生の頃から通っているという常連が聞くと、
「はい、できますよ」。
女子高校生が笑顔で、可愛らしい声で答えた。
その光景を見て思う。
焼肉文化が根付くとはこういうことなのだと。
東京で、ここが美味しい、あそこが美味しいなんて、ちゃんちゃらおかしい。
従業員がリズミカルにコブクロをたたく。
やがて出された皿に驚いた。
水キムチを少し辛くしたような冷たいスープに、刻みコブクロが入っているではないか。
こいつをスプーンで、ツルツルと食べるのだな。
ズズッ。ツルル。
これはコブクロに慣れ親しんだ人にしか作れない味である。
さらに「生セン」が来て、目を見開いた。
なんともきれいである。そして分厚い。
あの薄っぺらな紙を食べているかのようなセンマイとは、まったく違う。
ぐっとアゴに力入れれば、歯がせんまいにめりこんでいく。
この感覚があってこそ、生センである。
ナッパキムチもペチュキムチも、オイキムチも、熟成が効いた酸味があっていい。
しかしここの大根キムチは細切りにされていた。
こりゃあカクテキより楽しいぞ。
「むし豚」は、豚脂の甘い香りが溶けていく中で、肉がしなやかに滋味を出す。
そして作りたて「もやしナムル」は、作り置きもやしナムル特有の匂いもなく、清々しい。
ひげ根も取られていて、これが料理である。
まだ主役の焼肉も鍋も食べていないというのに、この高揚感、たまらないね。
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