牛蒡ごぼう2 煮牛蒡と鍋

食べ歩き ,

「ほな次に代表するのはなんやろね」。

「うーん、筑前煮ィといいたいが主役じゃねえし、煮ごぼうかな」。

「煮ごぼう。しぶいねぇ」。

表参道の「正」では、田舎煮といって四つ割りにした太い奴を煮て出すン。ザクッとむっちりの中間の歯応えがたまらん、と必ず頼む奴がいたね」。

小田原の「慈眼寺」では薄味で炊いて芥子の実あしらうてね、野の香りを楚々と漂わせて、あれは巧い仕事やったなあ」。

日本橋「鮒佐」の佃煮も忘れねえでくれ。深々とした茶黒色で、どっからが煮汁色でどっからがごぼう色かわかんねえのがいい。銀皿なんぞに盛ったら、品が出てね。おい、燗を一本つけてくれといいたくなる」。

「酒のあてゆうんなら、ミナミの「大黒屋」の酢ごぼうもええよ。酢がじんわり染みて、、ほのかな酸味と土の香り、胡麻の香りが合わさって、つい猪口に手が伸びるんや」。

「そいつはうまそうだねぇ。つまみなら神田「波良」の笹がきとジャコと山椒を炊いた、ごぼうじゃこもいけてるよ」。

「ほな、主役やないといわはったけど、筑前煮や豚汁、薩摩汁はどうやろう」。

「主役じゃないけど、ごぼうがいないとしまらねえ料理だ」。

「わしもそう思う。どうも大根と人参は一緒になりたくないと思っとる節があって、自分たちより野暮なごぼうがいることで、シブシブ体裁を保っているのや」。

「じゃあれはごぼうがないと、即日解散か」。

「間違いない」。

「献身の精神に富んでるねぇ。福岡「やす」の乱切りごぼうのガメ煮、西麻布「さぶ」の生き生きとごぼう香がたつ「けんちん」を食べるときゃ、心して食べなきゃいけねぇな」。

「間違いない」。

「根菜だけに、情の絡みが根深いわ」。

「次にごぼうが欠かせない鍋というと?」。

「そりゃ、どぜうよどぜう。土臭い仲間同士、仲良くやってらあ」。

両国「川崎」の鶏ちゃんこ、浅草「古沓」のつみれちゃんこ、門前仲町「三重の海」味噌バターちゃんこ、四谷「桃太郎」の牛のツラミと野菜鍋、飯倉「はせ甚」のすきやき、大阪福島「加津屋」の白味噌鍋、秋田「なべ作」の鴨鍋。ごぼうが欠かせん鍋て、仰山ありますなぁ」。

「店名で行数を埋めようとしてねぇか。でも結構出したな。まあ、ごぼう入れると野暮ったくて嫌だ、てぇいう奴らもいるが、俺はそいつらにいってやりたいね。肉や魚の臭みを消してんだろう、近頃の香りや味気のねえ腑抜け野菜なんざぁより、主張があって、鍋を盛り立てるじゃねえかと」。

「もっというて。気持ちいいわぁ」。