酒の友の焼き鳥を、甘辛いタレにからめて、肉汁と歯ごたえ、そしてタレの濃い味わいでご飯を掻き込ませる焼き鳥丼。鶏に厳しい昨今だからこそ、人間のわがままと欲望を反省しつつ、食べたい丼である。
京橋 伊勢廣
老舗格焼き鳥屋の昼限定の人気丼。一番人気の「四本丼」千四百円は、海苔を散らしたご飯の上に、中心をレアに仕上げて淡い滋味を生かした、笹身のわさび焼きと、甘い千住ねぎを鶏肉でくるんだねぎ巻、噛むと上品なうまみがにじみ出るもも肉に加え、名物の鶏団子が加わる。団子は、玉子を生まなくなった雌シャモを挽き、麻の実を混ぜ合わせたもので、確かな歯応えの中から練り肉の旨味が広がって、麻の実のプチプチとした食感がアクセントする。ご飯を呼び込む力も十分。おすすめの食べ方としては、ご飯の上に山椒をはらりとかけ、鶏肉に七味をかけるとうまし。「五本丼」千八百円は、鉄分豊富なレバー焼きが加わり、一時からのお得な「三本丼」千円は、ねぎま抜き。鳥のコラーゲンが溶け込んだスープ付
京橋 栄一
こちらも界隈きっての人気焼き鳥屋。縄のれんを潜って店に入れば、焼き台の前に立つご主人の、「いらっしゃいませ」という暖かい声に迎えられる。カウンターに座って出された熱々の鶏スープを飲みながら出来る様を眺めていると、スタッフの連携がなんともすばらしいことに気づく。声もかけないのに、ご飯をよそって、汁をかけ回してもみ海苔を散らした頃あいに、ちょうど串焼が焼き上がるのだ。「焼き鳥丼」 円は、柔らかくジューシーなもも肉、噛み締める喜びがある、大きな三個のつくね、ねっとり甘いレバーに砂肝の布陣である。サービスも迅速で心地好く、勘定を払って店を出るときは、毎回ご主人が顔を上げて、「ありがとうございました」と送り出してくれる。
西新橋 鳥助
昼早くより行列ができる人気店。店に入ると、食欲そそるにおいをまき散らしながら、ご主人が焼き台の前で黙々と焼いている。「鳥丼」千円は、ご飯にタレをかけ回し、大判の海苔を敷いた上に、弾むようなしっかりとした歯応えのあるもも肉によるねぎま塩焼き、締まった三角系の小さな脂身(ぼんじり)が一切れ入ったねぎ巻のタレ焼き、レバー、荒くたたいた食感がコリコリとあって、噛み締める喜びを生み出しているつくね塩焼きの四本がのる。中でもほんのりレア加減のつくねが、うまみに富んですばらしい。鳥のスープ付
虎ノ門 鳥与志
迫力ある姿の「焼き鳥丼」九百八十円である。まず第一に肉が大振りなこと。タレ焼きのもも肉は、歯が食い込むような食感があり、豊かな肉汁がにじみ出る。そしてレバー。焼き具合が程よく、ほんのりと甘い。回りをカリッと焼きあげた大きな鳥団子は、挽きが荒くて噛み応えあり。そのほかに手羽先がのる。ご飯の上は半分がもみ海苔で、半分が鳥そぼろ。そぼろは淡い味付けで、そぼろの煮汁と濃厚なタレ味がからまって、ご飯を勢いよく掻きこませる。鳥スープ付。
神谷町 あか羽
合鴨による「鷹匠鍋」の老舗。昼食のみに出される「きじ焼き御膳」千四百円は、熱々ご飯の上に、鶏肉の薄切りタレ焼き十枚ほどがのった丼だ。薄切りながら確かな噛み応えのある、質のよさを感じる肉質で、甘めのタレとすんなりなじんで、ごはんを恋しくさせる。量も十分で、御膳はこの丼のほかに、野菜の煮しめ、玉子焼き、ポテトサラダ、お新香、味噌汁、果物がつく。
池袋 母屋
駅から離れているが毎夜にぎわう、池袋では貴重な焼き鳥店。昼に用意される「焼き鳥丼」は、味噌汁付が九百円、とん汁付が千円。網焼きされた鳥もも肉の薄切りを、ドップりと甘辛いタレにからめて炭火で焼き、熱々ご飯に乗せる。一口食べて気づくのが、醤油の焦げた匂い。その香ばしさにそそられてご飯を掻き込めば、ご飯がタレに負けない自立したおいしさがあって、思わず笑みがこぼれる。タレが多目にかけられた下町風だが、ごはんがしっかりしているので、最後まで飽きずに食べることができる。肉も肉汁を確かに感じる上質の鶏。
武蔵小山・浜田屋 3781−8056
庶民感覚あふれる武蔵小山商店街にあるうなぎ屋さん。庶民的な風土にあってうなぎだけではなく、天ぷらや各種丼、酒肴を用意する。「鳥丼」は八百五十円。もみ海苔を散らして、うなぎのタレをかけ回したご飯の上に、長さ十二センチ、幅六センチに切った鳥もも肉を、うなぎのタレでじっくりつけ焼きしたものがのる。焼きあげられたつけ焼きの鳥もも肉は、皮の照りのが艶やかで食欲そそり、食べればコクのあるうなぎのタレが鳥のうまみを後押しして、思わずご飯を掻き込んでしまう。口安めに甘酢生姜を食べれば、口中さっぱりしてまた食べたくなる算段。鳥の横に添えられるふんわりとし玉子焼もの役目も同様でまたよし。
名古屋駅南・宮鍵 052−541−0760
うなぎとかしわ料理を明治三十一年から営む老舗。首ツルなどの挽き肉を玉子で閉じて、もみ海苔を散らした「親子丼」とともに人気が、「鳥丼」 円。一口大に細かく切った鳥肉と青ねぎを、薄い甘辛味でさっと煮てご飯にかけたもの。さしずめ、鳥が多い親子丼の玉子抜き。焼き鳥丼とはいえないが、薄い調味で鳥を生かし、ご飯を掻き込ませる力も持つ納得の丼である。
大塚・世界飯店
アジアの変則焼き鳥丼。中国料理とベトナム料理が混在する同店のもう一つの人気が、肉をご飯の上に乗せ、タレをかけた中国の丼だ。一番人気は「焼鴨飯」で、訪れると数人が注文し食べている姿が見受けられる。「焼鳥飯」八百五十円は、名前は焼き鳥ながら、揚げた鳥もも肉をのせた丼。揚げたての鶏肉は、皮がクリスピーで香ばしく、バリッザクッと痛快な音が響き、むっちりした肉に歯が食い込んでいく。そこにナンプラー主体のタレが加われば、スプーン持つ手が加速するは必至。