東京府東京市京橋区尾張町1丁目に、小料理屋「岡田」が開店したのは、大正5年 秋のことだった。
頑固で職人肌の初代店主岡田庄次が、髪が落ちないようにと、豆絞りのはち巻をしていたのが名物となり、いつしか屋号も「はち巻岡田」になったというという。
以来107年、水上滝太郎、河上徹太郎、川口松太郎、吉田健一、山口瞳など、多くの文化人や役者に支えられ、二回移転して、今も銀座の地にある。
東京に住んで、東京で働いている人間が,この店に訪れていないとしたら、それはもう、東京に居て居ないようなものである。
供されるのは、今や希少になってしまった江戸料理。
関東大震災の影響で、手間隙かけた細工的な 関東料理が次第に姿を消し、代わりに、シンプルで素材の味を生かした関西料理が広まっていった。
三河武士が作ったとされる関東料理は、あまじょっばく、カツオ出汁を使い、脂濃くなくあっさりとしている。
なによりも味に粋がある。
粋とは、九鬼周三が書いた通り、垢抜けた色っぱさなのである。
そんな味わいを噛み締めながら、菊正宗の薦被りの燗をやる。
これすなわち至福の時なり。
今晩いただいたのは10皿。さあ何を食べたでしょ