汁に始まり汁に終わる。
汁好き人間の僕にとって、この店の食事は理想である。
最初は、栗のお粥。
お粥が汁なのかと、言われそうだが、韓国の米のポタージュである。
どろりとなった液体で、米の形はどこにもない。
塩もせずに、米と栗と生姜だけで成り立っている。
舌は清められ、味覚は研ぎ澄まされ、胃袋は優しく起こされ、食欲を静かに揺すられる。
息は整い、これから始まるご飯と正対する。
最後もまた汁だった。
シレギへジャンクックという。
白菜と豚骨の味噌汁である。
肝心なのは、擂ったエゴマと縦に裂いた白菜を入れることにある。
白菜は切ってはいけない。
縦に裂いてこそ、食感も良くなりうまみも出る。
オンマの知恵はそう受け継がれ、日本人の僕が飲んでも、どこか懐かしい。
味噌汁で充足のため息を突きながら、雑穀米を食べる
時折常備菜をつまむ。
コマイと大根を煮た皿、慶尚南道に伝わるコンミは、大豆の葉のナムル。
梅エキスを加えたという水キムチ。
ごまと切り昆布に一年もののペチュキムチ。
桔梗の根っこ トラジのコチジャン漬け。
最後の食事で、体は浄化されて、もみほぐされ、心が真っ直ぐになっていく。
ああ、この味噌汁、あっちゃんに飲ませたいなあ。