韮崎「TSUSHIMI」

森の中にて。

食べ歩き ,

「次の料理が10分ほどかかりますので、テラスでビールをおのみになられるのはいかがですか?」
そうマダムに促され、テラスに座った。
溢れる緑を目に宿し、そよ風を頬に受け、樹々の香りを浴び、鶯の鳴き声で耳を癒しながら、地ビールを飲む。
「ああ気持ちいい」とは誰も言わない。
言わずとも、気持ちが通じあって、言葉にはしたくないからである。
「ご用意ができました」。
再びマダムに促され、室内に入る。
大きな鉄製の丸皿の上には、様々な野菜やきのこ、豆が乗っている。
特注だという鉄皿の、不連続な歪みや凹み、そして点在する錆が、大地を連想させる。
「裏の自家畑で採れたものや地元のもの中心に、80種類の野菜を盛り合わせています。それぞれ生だったり加熱したりと最適な調理を施しました」。
焼く、茹でる、揚げる、炙る、蒸し煮にする、マリネするなど様々な仕事をした野菜たちが、生き生きと口の中で爆ぜる。
加熱したものは温かい。
つまり寸前に料理されているのである。
数えれば42種類の料理が並べられていた。
1日1組4人までというこの店のスタイルは、それがベストでお出しする限界ということなのだろう。
寸前まで、神経を傾けながら、加熱し、切り、盛り合わせるシェフの姿を想像して、涙が滲んだ。
香りや甘み、苦味や辛味、様々な食感を受け止めながら、時にはうなずき、時には驚き、食べ進んで行く。
それは「Nouen2」と名付けられていた。
世には似た野菜料理は多いが、これほど料理名が体を成した料理は少ない。
野菜をかじりながら目をつぶれば、意識は山へ、里へ飛び、畑の只中へ立っていた。
 
(今回は野暮になるのであえて料理写真は載せませんでした)