ある日、「インゲンと牛蒡の胡桃和え」を食べた。
地味な皿である。
しかしひとたび食べると、胡桃の香りの高さと品の良さに、顔が崩れた。
胡桃を、丹念に、時間をかけてあたった結実である。
そこに、茹で置きではないインゲンのみずみずしさと牛蒡の土臭さが加わり、一つの宇宙が出来上がる。
同寸に揃えられた牛蒡やインゲンの口当たりも良く、さりげない小鉢に注がれた誠実に、心が緩む。
こういう料理こそ、「仕事がしてある」という。
食材と自分の仕事と、お客さんに対して、真摯に向き合った、「仕事」である。
八寸にもその精神が溢れて、決して、作り置きをしない。
車海老は、中心をレアに仕上げた茹でたてで、鱧も焼き立てである。
銀杏はもっちりとした食感を出すようにつぶし、穴子のうま味が牛蒡に染みた八幡巻も、作り立てである。
「お客さんに少しでも非日常を味わってほしい」。
その想いが、盛り込められている。
ご主人は、樋口考太郎、35歳。
都内の割烹でも中々で出会えない仕事が胸を打ち、そこに酒が染みて、この店への愛が深まる。
もし僕がタベアルキストでなかったら、週一回は来たい。心からそう思う。