麻布十番「前平」

新江戸料理4

食べ歩き ,

  • 枝豆

  • 肝醤油アワビ

  • 肝醤油アワビ

  • マッシュルーム

  • はも花山椒

最後は、天ぷらをご紹介したい。

「前平」で驚いたのは、海老であった。他と変わらぬ巻き海老ながら、一口噛んだ瞬間、海老が爆ぜた。

他所のように全身を伸すことなく、尻尾の際だけ伸しているという。それによって海老の筋がいきるため、噛みしだく食感になる。

結果としてよく噛む。

噛むことによって海老の甘い風味は増大して、我々を幸福にするのである。

このような工夫が随所に見られる。

ネギの青々しい香りが小柱の柔らかい甘みを輝かせるメネギ小柱。

一筋縄ではいかない根菜の力強さを詰め込んだ紫人参。

ペーストした枝豆団子に固茹で枝豆を射込んだ、枝豆。

添えた花山椒佃煮と食べさせる鱧。

食べかたとして最高だと思わせるマッシュルーム。

個体を丸ごといただく感がある、肝醤油につけて食べるアワビなど、よそでは見かけない天ぷらに、笑い、しびれる。

天ぷらの未来がある。

シンプルな良さを熟知しながらも、より素材の力を生かすにはどうしたらいいかを突き詰めた、正道がある。

そう、今回ご紹介した「新江戸前」の仕事は、邪道ではない正道である。

本来は鰻の産地違いを表した「江戸前」というという言葉は、今では「江戸流の仕事という意味も含む。

「新江戸前」とは、伝統的な仕事に新たな技や工夫を加える。

それは従来の仕事を踏襲しながら、もっとおいしくする方法はないかと日々考え、模索し続けた賜物である。

その姿勢こそが、連綿と続く「江戸前」の仕事であり、伝統を生かすことなのではないだろうか。