新橋「山路」

食べ歩き ,

久々に通いたくなる、東京の割烹に出会った。
「この時期のメイタガレイは香りがいいんです」。
そう言って、コースの最後に出してくれたのは煮付けだった。
口にすれば、ほのかに青い香りがあって、その爽やかさと魚に満ちたうまみが抱き合い、季節への感謝を呼ぶ。
そして精妙な淡い当たりの煮汁が、メイタガレイをそっと持ち上げ、酒を呼ぶ。
煮魚には、うまみが深い山形正宗を薦めてくれた。
お造りは、7〜800gの鱧と石垣貝の取り合わせである。
昨日神経締めした鱧と、今日神経締めした鱧を取り合わせ、昨日の方は軽く炙り、今日の方は身がいかっているため、皮目を軽く炙る。
昨日の鱧は味が馴染んで、じっとりとうまい。
今日の方は、味というより香りと食感を楽しむためにある。
「こっちは落としが合うね」。そういうと「そうなんです」と微笑む。
石垣貝は、「なにもつけないほうが美味しいです」と言われ、そのまま食べてみる。
青柳に似た香りを放ちながら、舌の上で身をよじり、ゆるゆるとうまみが溶け出してくる。
こいつはエロい。すぐさま酒を流し込まなくちゃ。
「焼きアマダイとじゅんさいのお椀」「カツオの刺身」「ながらみ貝のお造り」「新子とイワシの握り」「鮎の塩焼き」「絹皮ナス天ぷら」「渡蟹山椒醤油漬け」「天然うなぎのみにうな丼」「そば」も、素晴らしかった。
主人は、34歳。
若いながら魚に精通しているが、それは料理人として当たり前のことである。
だがそれぞれの時期の魚の、どの味や香りを生かすのかを、明確に思い描いて調理している人は、少ない。
高級食材に頼らず、一万円以下のコース仕立てで、十二分に魚のありがたみを教えてくれる。
新橋の小さな割烹を、サービスの方と二人でやっているため「自分の未熟さもあって、なかなか野菜料理の仕込みまで手が回らない。今後の課題です」という。
「でも今度いらっしゃっていただくときまでには、いろいろ見直して、野菜料理もお出しできるようにしておきます」。
行くよ。必ず
新橋「山路」にて。