台北「晶華軒」

味蕾享受。

食べ歩き ,

フランス料理における、アミューズブーシェやアミューズグールは、「口を楽しませる」として、前菜の前に出される一口料理である。
可憐で驚きがあり、これから始まる食事への期待を高めてくれる。
中国料理でも、稀に登場する。
「晶華軒」の〈小滿漢〉と記された小菜は、まさにそんな姿と味で、気分を高めてくれた。
以前食べたことがあるものでも、まったく違う表情があって、心を打つ。
例えば、ピータンである。
「泡椒皮蛋」と題されたそれは、 泡椒が載せられたピータンなのだが、泡椒の風味に驚かされる。
辛く酸っぱいだけでなく、優しい甘みが潜んでいて、ときめかせるのである。
そのときめきが、濃密なピータンの黄身をエレガントにする。
例えば「豚のクリスピー焼き 脆皮豬燒肉」である。
豚バラの皮をパリンと焼き上げた料理だが、その皮がなんとも薄い。
パリパリというより、薄い飴細工を噛んだときのように、カリカリと弾けて消え、甘い豚脂がとろんと現れるのであった。
その小さな体に込められた、太極の食感に、唸る。
「季節春筍」は、日本で言うところの筍の木の芽和えだろうか。
コシアブラのようなチャンチンと言う野菜を和えているのだという。
まさに木の芽和えと同じ原理で、筍に青葉の爽やかな香りを加えて、春の到来を祝う。
「生醃胭脂蝦」は、潮州式酔っ払いエビである。
その酔っぱらい方がエロい。
ほろ酔い女性の可愛さに似て、「頬赤くなっちゃたぁ」と、メガトロンとなり始めている気配がある。
それゆえに、本来のエビがてれんと甘えてくる。
そこに惚れるのだな。
「鮑魚野菌酥」は「鮑バイ」と「潮式凍馬友」は、先日アップしたものである。
色合いが異なり、風味も異なる六皿が、脳幹を刺激して、少し上気させ、次に続く食事を、そっと盛り上げるのだった。
台北「晶華軒」にて