三越前「蟹王府」

危険な麺。

食べ歩き ,

上海蟹の季節がやってきた。
だが今年は暑かったため、生育が遅く、まだ小さいという。
そこで一足早く食べたいと、「蟹王府」にやってきた。
といっても、蒸し蟹を食べるわけではない。
蒸し蟹はやはり肥えてから、そのミソを、卵を、存分に味わいたい。
今こそ麺である。
「王府蟹粉拌麺 上海蟹肉入り特製和え麺」4840円を、いただいた。
高価と思われよう。
だがこの和え麺の蟹ソースには、メスを中心として7匹分の蟹が入っているというのだから、むしろお値打ちかもしれない。
1匹5千円近くする蟹を、一皿の麺料理に7匹も入れる。
そんな恐れ多いことができるのは、自社で養育している「蟹王府」だからできることなのだろう。
さあ現れた。
全面上海蟹である。
箸で探ると、中から自家製手打ち太麺が現れた。
麺とソースというか餡を、よくよく混ぜる。
ずるる。
一口酢すすった途端、大笑いしたくなった。
ミソと卵と身が、渾然一体となった甘みが、口の中を埋め尽くす。
もっちりとした麺は、蟹の滋味を抱き込むようにして、舌の上で舞う。
一口すすった後も、余韻が長い。
これはもっと上海蟹を味わねばと、今度はまず、餡をレンゲですくって口の中に流し込み、すぐさま麺をすすった。
ああ。
どどうっと流れる、上海蟹の激流の中を、麺が泳いでいくではないか。
今度は声を出して笑ってしまった。
途中で黒酢を垂れせば、味に深みと陰影が出て、箸を持つ手が加速する。
しかし7匹分である。
こうして食べても、餡が残ってしまう。
そこでご飯を少しもらった。
餡にぶちこみ、よくよく混ぜた。
ハハハハ。
これは危険である。
良い子は決して真似してはいけません。
三越前「蟹王府」にて。