金沢『片折」

南瓜豆腐。

食べ歩き ,

夜道から店に入ると、漆黒に包まれた、
廊下には、小灯篭が随所に置かれ、柔らかな光を放っている。
カウンター席もまた、電灯が消され真っ暗ではあるが、壁には一筋の光が灯されていた。
「温もりの冬至」だという。
暗闇で見る灯りだからこそ、尊さが募る。
昔の人は、冬至という厳しい時期から、邪気を払う豆と、運を呼ぶ「ん」がつく食べ物をたべた。
それが小豆とカボチャ(なんきん)である。
コースの途中、見慣れぬ料理が出された。
「南瓜豆腐」だという。
南瓜と葛を練り上げて、型に入れて蒸した料理で、小豆が2粒乗せられている。
ねっちゃりとした南瓜豆腐を、舌に落とす。
淡い。
南瓜のイメージとは離れた、希薄さがある。
強い南瓜の味わいと離れた、曖昧さがある。
だがその希薄は、南瓜が持つ繊細であり、曖昧は、南瓜が持つ洗練なのである
何度も噛み、味を探すうちに、それに気がついた。
小豆につけられた微かな塩味と豆の優しい甘みが、そんな本来の南瓜をあらわにする。
今まで僕は、南瓜の何を見ていたんだろう。
そう目覚めた瞬間、皿は空となり、その味は永遠となった。
金沢『片折」にて。