アルドアック

食べ歩き ,

丸い。地平線の彼方まで味が丸い。
インゲン豆とひよこ豆、キャベツ、セロリ、ジャガイモ、パプリカ、豚肉、ソーセージを水だけで煮込んだ「ベレサ・ヘレサーナ(ヘレスの豆煮込み)」は、誰も主張しない。
すべての味と香りが一体となって、なめらかな甘みを紡ぎ出す。
淡く優しい甘みにハグされて、硬くなった心が弛緩していく。
食べて、ハァ〜と息を吐き、食べて、微笑み、食べて、体の余分な力が抜けていく。
一方、小アジのオーブン焼きも、静かな味である。
玉ねぎとパプリカを、シェリーヴィネガーで炒め煮にし、小アジの開きを乗せてオーブンで焼いた料理である。
野菜の甘みを、シェリーヴィネガーの穏やかな酸味とコクが持ち上げて、アジは大地の味わいと触れ合って喜んでいる。
よしもっと一緒にしてやろうじゃないか」と、下の野菜とアジを混ぜ、スプーンで口に運んだ。
もし一人じゃなかったら、他に客がいなかったら、その場で大笑いをしていただろう。
茄子のフリット、サルマレホ、アホブランコも、味がしつこくないがコク深い、「鶏のシェリー酒とシェリーヴィネガー炒め煮」も。中近東のスパイスを豚に三日間マリネして焼いた「ピンチョス・モルーノ(モロッコ風ピンチョス)も、アンダルシアの郷土料理は、野菜を大切に思うアンダルシアの人たちの愛がある。
太陽の匂いと人間の優しさが詰まっている。
「アルドアック」にて。